専業主婦から一転、父の残した町工場の社長になり、数々の危機を乗り越えて会社を成長に導いた功績を認められ、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」を受賞した諏訪貴子さん。その激動の半生をつづった著書「町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争」(日経BP社)が、このほど、内山理名さん主演のドラマ「マチ工場のオンナ」としてNHKで放送されることになりました(11月24日22時から、NHK総合で放送開始)。
 悩んだとき、迷ったとき、ピンチをチャンスに変えるにはどうすればいいのか。諏訪さんから、働く女性たちへのメッセージを公開してきました。今回は最終回。成功を呼び込むための諏訪さん流の哲学が満載のインタビューです。

<過去記事>
第1回 主婦から社長業へ「夢どころじゃない、でも焦らない」
第2回 「失敗」した? それは「成功の糧」と考えて前を向く

すべての物事は「何とかなる」

――諏訪さんは、経営者としてダイヤ精機を切り盛りする傍ら、講演のため全国を飛び回り、合間に哲学書も読み、非常に多忙な毎日を過ごしておられます。やるべきことが多すぎて、自分の手に負えないと感じることはありませんか?

諏訪さん(以下、敬称略) 私は常に、すべての物事は「何とかなる」と信じて仕事をしています。「何とかする」方法を、自分で見つけておくんです。実は私、切羽詰まらないとなかなかタスクに手が付けられないタイプ。学生時代のテスト勉強も、エンジンがかかるのはいつも直前でした。仕事の資料作成や原稿執筆も、やると決めてからギリギリまで引っ張るのですが、いつも何とか間に合うんです。と言うよりも、私は直前になると集中力を発揮できるタイプなので、間に合うように努力するんですね。もちろん、時間に余裕を持って計画的に進めたい方もいるでしょうし、自己分析をして、自分にとって一番うまくいくやり方を見つけておくのがおすすめです。

 やるべきことがたくさんありすぎて気持ちが焦っているときは、まず「何とかなる」と自分に言い聞かせて心を落ち着けるといいですよ。気持ちを広く持つと視野が広がるので、いろいろな可能性が見えてきます。自分一人では限界がある仕事でも、協力者を集めて皆で取り組めば、早く終わるかもしれませんよね。

子どものように何でも楽しむ心を持ちたい

――仕事で煮詰まったときには、どんな方法で気分転換をしていますか?

諏訪 最近は、御朱印集めにはまっています。経営者として大勢の人に会っていると、どうしてもいろいろな人の影響を受けてしまうので、講演会で訪れた場所の近くの神社を訪ねて気持ちをリセットするんです。あとは直観力を鍛えるために、デイトレードも始めました。自分がいいと思ったものはとにかくやってみることにしています。没頭できる趣味があると、仕事にも新鮮な気持ちで向き合うことができますよ。

 前回読書の話をしましたが、絵を見ることも好きですね。私、ピカソの絵が大好きなんです。以前は、よく知られている抽象画を見て「子どもでも描けそう」なんて思っていたのですが、スペインのピカソ博物館に行って、彼が幼い頃に描いた写実的なデッサンを見ると、もう天才的に上手なわけです。そこからピカソはどんどん画風を変えていき、晩年になって「ようやく子どものような絵が描けるようになった」という言葉を残しています。あれだけの才能を持った人が、純粋な汚れのない心で、子どものように楽しんで絵を描くことを目指していたと知って、心を打たれました。

 そんな視点で自分自身を振り返ったときに、「いつの間にか世の中の常識に縛られて、退屈な人間になってしまっているんじゃないか」と思ったんです。子どものように何でも楽しむ心を持ちたい。仕事の上でも、新しいものに対し、子どものように目を輝かせて向き合っていきたいと考えるようになりました。

 今、私は全国で年間150回ほどの講演をしているのですが、同じことを繰り返し話しているうちに、だんだん自分が飽きてきてしまうんです。常に新しい気持ちで楽しみたいので、いろいろな工夫をしています。例えば、講演会の受付に私自身が立ってみたこともあります。ポスターまで貼ってあるのに、600人のお客さんのうち、私だと気づいたのは2人だけでしたね(笑)。あるいは5分前に会場に入って客席に座り、私であることを隠したまま、隣に座っているお客さんに「今日の講演にはどんなことを期待して来ました?」とインタビューして楽しんだり。何度講演を重ねても、「今日の講演が今までで一番」と感じられるように、新鮮な気持ちを保つ工夫をしています。