専業主婦から一転、父の残した町工場の社長になり、数々の危機を乗り越えて会社を成長に導いた功績を認められ、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」を受賞した諏訪貴子さん。その激動の半生をつづった著書「町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争」(日経BP社)が、このほど、内山理名さん主演のドラマ「マチ工場のオンナ」としてNHKで放送されることになりました(11月24日22時から、NHK総合で放送開始)。
 悩んだとき、迷ったとき、ピンチをチャンスに変えるにはどうすればいいのか。諏訪さんから、働く女性たちへのメッセージを3回にわたり公開していきます。第2回は、諏訪さんが苦境をどのように乗り越えてきたのかをお届けします。

<過去記事>
第1回 主婦から社長業へ「夢どころじゃない、でも焦らない」

新しいことを始めるときの基準は「楽しめるかどうか」

――諏訪さんは経営者として、これまでさまざまな「決断」をしてこられたと思います。働く女性の中には、自信のなさからなかなか決断できない、リーダーシップが取れないという方が少なくありません。さまざまな決断をする上で、諏訪さんが心がけておられることがあればぜひ教えてください。

諏訪さん(以下、敬称略) そうですね。私が新しいことを始めるときの判断基準は「楽しめるか、楽しめないか」なんです。だから何かを決断するときは、「よし、楽しもう!」という気持ちで決めています。

 未知のことに対する怖さや不安はもちろんあります。そんなときには、決断の結果、うまくいっている自分の未来の姿を想像するんです。楽しみな気持ちが不安を上回ったときに決断し、やると決めたら即行動するのが私のやり方です。

――ダイヤ精機の社長になることを決断したときも、やはり「楽しもう」というお気持ちだったのですか?

諏訪 いや、「社長になる」という決断をしたときだけはさすがに悩みましたね。経営者になるという決断は、一方通行なんです。会社に普通に就職するのと違って、辞表を出して「辞めます」というわけにはいかないですし、社員も守らなければなりません。一度決断したら、あとは社長として生きていくしかないんです。

――「社長になる」という大きな決断を後押ししてくれたのは何だったと思いますか?

諏訪 ダイヤ精機の前社長だった父が64歳で急逝したとき、最期の表情が笑顔だったんです。その顔を見て、やりたいことを思う存分やって駆け抜けた父は、短くも太い、いい人生を送ったのだなと思いました。だから私も、「前に進まなきゃ」「一度しかない人生、後悔しない道を選んで精いっぱい生きよう」と感じたんです。

 とは言え、専業主婦だった私が突然社長になったわけですから、最初は分からないことだらけでした。学ばなければならないことが本当にたくさんありましたが、「苦労」とは思いませんでしたね。それよりも、新しいことを知りたいという探求心や、ひとつずつ学び吸収していく快感を強く感じました。この道を選んでいなければできなかったことを経験できる喜びは、とても大きいですね。