前回の記事「将来子どもを産むなら、今から『腸活』が必要な理由」にて、赤ちゃんは、胎児期にお母さんから腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の設計図を受け取っている可能性が高いという話を紹介した。だからこそ、妊活する女性は、妊娠前から設計図のもとになる自分の腸内環境を整えておくことが大切だ。そのためには何をすればいいのだろう。胎児期から乳児、小児期の腸内環境に詳しい、東京女子医科大学小児科・主任教授の永田智さんに聞いた。

母体の腸内細菌叢を悪くする3大要因

――お母さんは、妊娠期から既に自らの腸内細菌叢を「設計図」として赤ちゃんに伝えている、という考え方からすると、赤ちゃんの腸内細菌叢にはお母さんの腸内環境が大きな影響を与える、といえそうです。まず、妊活中、妊娠中の女性が注意すべきことから教えてください。

永田さん 最新の研究(※1)で、赤ちゃんの腸内細菌叢に悪影響をもたらす可能性がある、といわれている母体側の要因は、以下の3つです。

 1)まず、「急激な肥満」。急激な体重増加は腸内細菌叢のバランスを崩します。その情報をもとにした設計図を母体の樹状細胞が伝えると、赤ちゃんはそれをお手本に腸内細菌叢をつくってしまう可能性があります。また、急激な肥満は早産リスクを高めるともされます。

――一方で、わが国では痩せ形の妊婦が増えていて、それに伴う低出生体重児の増加が問題視されています。急激な肥満とは、具体的にどんな増え方でしょうか。

永田さん 妊娠期だと、「1カ月に1kg」という体重増加は当たり前で、これを肥満とは言いません。妊娠の経過を診てくれている医師と相談しながら、「急激に体重が増えたので気を付けてください」と言われるような太り方をしないように、と理解してください。

 2)もう一つのリスク因子は「糖代謝の異常」です。血糖値が上昇したら速やかに膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌され、血糖値を元に戻す、という働きが私たちの体には備わっていますが、妊娠期にインスリンの働きが悪くなり、高血糖状態が続きがちになるのが妊娠糖尿病です。

 肥満、糖尿病の家族歴のある人、高年齢出産の場合はこのリスクが高くなります。

 肥満と同様に、母体に糖代謝異常が起こるとある種の腸内細菌が増え、腸内細菌叢のバランスがくずれます。それが赤ちゃんの腸内細菌叢に影響すると、将来的に糖尿病を含めた生活習慣病になりやすい体質に変わってしまうかもしれないのです。また、妊娠糖尿病は胎盤に炎症を引き起こしやすくし、赤ちゃんの免疫にも悪影響をもたらす可能性が示唆されています。流産や胎児死亡の原因になることも。

 血糖値が上がっていても自分では自覚することができません。赤ちゃんのためにも、妊娠中の血糖値検査は必ず受け、妊娠糖尿病を早期発見するよう努めてほしいです。

 3)そして、3つ目の因子が「抗菌薬」です。感染症などの有害な細菌を死滅させるために処方されますが、抗菌薬をのむと、腸内細菌叢もその巻き添えを食い、バランスを崩してしまいます。つまり、有用菌である母体のビフィズス菌や乳酸菌までも減ってしまい、腸内細菌叢の多様性が失われてしまうのです。

 とはいえ、医師が必要と判断した薬を、患者さんがのむかのまないかを決めるわけにはいきません。この点に関しては医療者側が「不必要な抗菌薬の投与をしない」ことを肝に銘じるしか、腸内細菌叢を守る手立てはないのですが。ただ、患者さんが、以前にもらって残っていた抗菌薬を自己判断でのむ、というようなことは避けてくださいね。