視聴者がうれしくなってしまう、「ひよっこ」の魅力
実は、このドラマには、ファン心理について描かれたシーンが他にもあります。
ビートルズ来日であかね商店街の人たちに一体感が生まれていたときのこと。
ビートルズを知らないすずふり亭の店主・鈴子さんは、ビートルズの人気について聞いたとき、「若い女の子に人気あるんでしょ、じゃあきっといいもんだろうね。私はビートルズなんて知らないけどね、いつの時代も、若い女の子が夢中になるものは本物なんだよ。女の子はね、いいものを嗅ぎ分ける力を持ってるのよ。理屈じゃなくてさ、だからきっと、それはいいものだ」というシーンがあり、女性たちの趣味や好きという気持ちがまるごと肯定されたようで、胸が熱くなりました。
細かい部分ではありましたが、こういう視点がドラマにあることが分かると、うれしくなるものです。
ちょっと変わった空気感を持っているけれど、乙女心がかわいくて憎めない愛子さん。ものすごく素直で口さがないけれど、やっぱり憎めない高子さん。
二人の女性を見ていると、誰もが持っている感情や私たち自身のことを描いてくれているような気持ちにもなります。
「ひよっこ」では、この2人に限らず、困った部分のある人が何人も登場します。
でも、困った部分があるからといって、嫌な人として書かれてはいません。冒頭に出てきた宗男さんや、白石加代子さん演じる、住人の近況に興味津々で、住人からの差し入れを期待しまくりの大家さん。やついいちろうさん演じる、仕事をさぼりがちで後輩にも厳しい元治さん。
人にはそれぞれ変なところがあって当然。それでコミュニケーションをやめるきっかけにしないでいい、という気持ちが込められているように思います。
それが、「ひよっこ」に癒やされる要因なのかもしれません。
文/西森路代 イラスト/川崎タカオ 写真/PIXTA
◆変更履歴:本文を一部修正しました。(2017年8月1日)