「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」

 リクルート社のブライダル情報誌「ゼクシィ」が打ち出したCMコピーは、今まさに結婚しようとする世代よりも、その上の世代——既に結婚して「しまった」世代にこそ、最も大きな衝撃を与えたかもしれません。

非婚時代ですが、私たち、結婚します! (C)PIXTA
非婚時代ですが、私たち、結婚します! (C)PIXTA

まだ結婚で消耗しているの?

 CMが流れるようになってから、おじさんおばさん既婚者たちが口々に言ったものです。「なぜだろう、胸が痛む」「まぶしすぎて直視できない」「あのゼクシィのCM……言ってはならないことをとうとう言ってしまったような気がする」。

 それは、「結婚しないと幸せじゃないと刷り込まれていたから素直に結婚した世代」に向かって、「いや、本当はもう、今は結婚しなくても幸せになれるんですけどね」と断言してしまった、という意味なのではないかと思うのです。

 「逃げ恥」の主題歌ではありませんが、「夫婦を超えてゆけ」ていない、夫婦という既存の形式や役割にバッチリはまって身動きが取れなくなってしまっている「ちょっと上の世代の」既婚者たちは、結婚という制度に対する疑問がガンガン頭をもたげるのに、疑ってはいけないと自分に言い聞かせるしかないのです。自分の存在が、人生が、根底から揺らいでしまうから。どうです、怖いですねぇ。

ゼクシィの表紙を見せて歩いていた女性

 ターミナル駅構内を歩いていたら、向こう側からなにかキラッキラしたものが近づいてきました。何だろうと視線を固定すると、それは髪をアップにした、ちょっとキリッとしたパンツ姿のアラサー女性。決して甘過ぎないキャリア女性の薫りをさせる彼女の胸には、雑誌「ゼクシィ」が表紙を外側に向けて両手でしっかりと抱かれているのでした。

 あまりのゼクシィアピールに、初めはゼクシィの編集者かなと思いましたが(職業病)、違う。書店で「あ、レジ袋いりません」と購入して、うれしくてもうすぐにでも読みたいという感じ。ゼクシィを買ったことを世の中すべてに知らせたい感じ。

 「私、結婚するんです! 結婚式挙げるんです!」という漫画の描き文字が背景に見えるようでした。

 ああ、ゼクシィの光……。本人も今、最高潮に幸せなんだろうなぁ、キラキラしてるわ……。そして、最近のゼクシィ女子って、必ずしも、「結婚したいです〜ぅ。専業主婦になりたいんです〜ぅ」の甘々ノンキャリ女子じゃないんだねぇ。CMでもそれは顕著。あの光は「この非婚時代に、あえてあの人と結婚するんです」との、硬質な覚悟も秘めた幸せオーラなのかもしれないなぁ……なんて、ゼクシィを勲章のようにして身に着けた彼女が勇ましく闊歩(かっぽ)していく姿を見送りました。

 ゼクシィはかつての「甘々女子の新天地・花嫁幻想パラダイスへの切符」「そっと部屋に置いておく『そろそろ結婚を』プレッシャー」「痴話ゲンカの凶器」から意味を変え、「仕事もプライベートも両立できるバランス女子がこの時期限定でガーリー全開になってよしと認められた勲章」になりつつあるのかもしれないと感じたのです。