社員が15時に退社するのも当たり前の光景
――残業時間削減の取り組みを始めたのが2012年ということですが、結果が出てきたと感じたのはいつ頃でしたか?
本当の意味で変化を感じたのは、つい最近かもしれません。残業時間そのものは、2013年には30時間程度までぐっと減っていました。ただ、その頃はチケットによって「仕方なく」「強制的に」帰らされていたと思います。それが自主的に「帰ろう」という気持ちになったのは、本当に最近のような気がしますね。
実は、「NO残業デー」や「サマータイム」など、定着しなかった制度もたくさんあるんです。私がどんどん制度を思いつくので、社員は戸惑うことも多かったでしょうね。ただ、いろいろ試してみたからこそ、今の制度がある。「残業チケット」も、最初は3枚から始まり、7枚になり、ペナルティが課せられるようになってと、どんどん変化しています。社員が変わったり、組織が大きくなったりと、会社は変化していくものですから、それに合わせて制度も柔軟に変えていくべきだと思っています。
例えば、昨年から新たにフレックスタイム制を導入しました。コアタイムは11時から15時なので、15時に帰る社員も珍しくありません。100時間残業していた頃にフレックスタイム制があっても、15時に帰る社員なんていなかったでしょう。みんなの意識が変わったからこそ導入できた制度です。また会社の状況が変われば、別の勤務体系になるかもしれません。今の状況をベストだとは思わず、常に社員の様子を見て、環境を変えていくつもりです。
業界のイメージを変えたい 目指すはピクサー
――会社として、目指している姿はありますか?
米ピクサーで見た風景が忘れられません。クリエイターには個室が与えられ、定時になればサッと席を立ち、プライベートはきちんと自分のために使う。そうして世界的に評価される作品を作っているんです。まさにプロフェッショナルだと感じましたね。環境が違いますから、アメリカのスタジオとまったく同じようにいくとは思っていませんが、私の理想の姿です。今年オフィスを一軒家に移したのも、そのときのイメージがあったから。さすがにまだ1人1部屋とはいきませんが、チームごとに部屋を分け、“スタジオ感”を追及しました。チームの絆が強まったようですし、ビルを間借りするのではなく一軒家を借りることで、会社として一体感が出たと思います。
クリエイターを目指す学生と話す機会も多いのですが、どうしてもアニメーション業界のイメージは「長時間労働で大変」となりやすい。日本のアニメーションは世界に認められるほど高いレベルにあるのに、そのネガティブなイメージで、若い人がクリエイターをあきらめてしまってはもったいない。ピコナがこんなにも変わることができたのだから、業界だって変わっていけるはずです。まだまだ小さな存在ですが、ピコナが新しい働き方を提案して、日本のアニメ業界のあり方を変えていけたらと考えています。
文/藪内久美子 写真/大吉紗央里
URL:http://picona.jp
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