私たちがファンタジーに引かれるワケ

 ここでふと気づくのですが、「ハリーポッター」の物語は、一見魔法という私たちの日常とはかけ離れた世界を描いているようで、実は私たちの日常を想起させ、勇気づけてくれるものでもあります。

 もちろん私たちがこのファンタジーに引かれる理由が、魔法の世界というその非日常性にあるのは事実です。でも、決してそれだけではないのです。生まれ持った宿命ゆえに苦難に直面し、それでも自分のその天賦の能力を生かして、また一生懸命経験を重ね、成長していくハリーらの姿に引かれているはずです。

 そしてその懸命に生きる彼らの姿こそ、私たちの日常と重なる部分なのです。人間は誰しも、何らかの天賦の才能を持ち備えています。別に特別の才能ではなくても、何かに優れていたり、もともと体格に恵まれていたりということはあるでしょう。例えば、生まれつき背が高ければバレーボールやバスケットボールをやることが多いと思います。

 ところが、背が高いだけで名選手になれるわけではありません。そこには努力が求められるのです。経験と言ってもいいでしょう。背が高いという宿命ゆえに、努力が求められ、懸命にあがきながら成長していく。一人ひとり異なる個性を持った人間がこの世に生まれ、生きていくということは、まさにこういうことなのです。

ハリーポッターと賢者の石
<ストーリー>
J.K.ローリング原作のベストセラー小説を映画化したシリーズ第1弾。数奇な運命を背負った魔法使いの少年の成長と冒険を壮大なスケールで描いた傑作ファンタジー。

販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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文/小川 仁志