更年期障害の偏見をなくすには

カワイ 例えば、女性社会進出先進国である北欧では、徹底した教育が行われています。イライラ、大量の汗、もの忘れ、軽いウツ傾向、仕事のミス……。そういった症状が、40代前後から誰にでも起きると周知徹底されているので、更年期障害に対する偏見はほとんどありません。

 会社でも上司が部下の女性が異変に気付くと、更年期かどうかをドクターを交えて確認します。必要な場合には、上司が治療を促したり、休職を勧めたりするの。

ニケ すごい~。でも、最近オジさんも更年期あるっていいますよね?

カワイ その通り。男性は女性以上に更年期障害に関する知識がないから、人知れず悩む人が多い。特に、性欲が減退したり、ED(Erectile Dysfunction)になったりするから、自信を喪失する。

 そんなときに、「それって更年期障害では?」と他人から指摘されて、初めて男性にもあるってことを知って、「なんだそうだったのか!」って救われることがあるの。

ニケ 指摘されて嫌だったり救われたり。なんか難しいですね。そもそも更年期障害って、名前が悪いですよね! 「オトナ思春期」とかでどうでしょ?

カワイ オトナ思春期……、いいわね、ソレ。40代前後って、「思秋期」って心理学の世界では呼びます。なので、オトナ思春期いいかもね。

ニケ えええ、思秋期? 何ですか、それ?

カワイ あら、ずいぶん食いついてきたわね……。

 人間には、「自分は何者なんだろう?」と自分の存在意義や価値を探索する欲求があります。自己アイデンティティです。で、その欲求が最初に強まるのが、子どもが大人(青春期)に成長する10代後半。だから「思春期」。

ニケ ワオ! 思春期ってそういう意味だったんですね~。じゃ。思秋期は、人生に飽き(=秋)る自分を思い始める、とか?(苦笑)

カワイ 座布団一枚! うまいこと言うわね~。あながち間違ってないし。

 若いときって、仕事でも次々と新しいことができて、いろんな人と出会えるから、一つひとつ階段を上っているような気持ちなりますよね。でも、40代になると、会社でもだいたい自分の限界が見えてきて、「このままでいいのかなぁ~」って不安が募る。再び、自分探しが始まって、まるで10代の頃のように、新たなアイデンティーを確立しようとする。

 春の次だから「秋」。それが「思秋期」。40代以降は「人生の午後」と呼ばれることもあります。

ニケ やっぱり、人生に飽きちゃうんですね!

カワイ (笑) むしろ「自分へのあきらめ」といった方が近い。

 相談者の方がそうだったように、それまでは頑張るのが当たり前で、一生懸命ひたすら山を登ってきた。ところが、ある日ふと気付く。「あれ? これ以上登れないじゃん」って。すると無力感に襲われ、途方に暮れてしまうの。

 更年期障害って言葉を使った途端、いろんなものが一緒くたにされてしまうのだけど、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、40代は変わり目にさしかかる時期。今までとは、少しだけ違う視点で、自分と向き合う必要があるんだけど、なかなかそれが難しい。

ニケ うちの部長が、子どもの運動会で親子リレーで足絡まって転んで、松葉杖で会社来てるんですけど、これって自分と向き合えてないってことですよね?

カワイ ……ふむ。正解! そう。心はまだまだ「走れる!」って思っているのに、体は「無理」だからコケる。

 心と体の不一致です。これは相談者の方にも言えること。彼女は「以前のようにシフト勤務ができない」みたいだけど、シフトとシフトの間、どうやって過ごしているのかしら? 食事はどうしているかしら?