イケメンゴリラは、意外にシャイだった

 東山動植物園との交渉は順調で、「ゴリラを擬人化しない」「一過性のブームで終わらない息の長い写真集をつくる」などといった方向性が固まり、6月に正式にゴーサインが出ました。

 「今回は東山動植物園が所有していたシャバーニの写真に加え、新たに撮り下ろした写真をたっぷり加えることにもこだわりました」と語る鈴木ですが、実はゴリラというのはかなり繊細で、慣れた飼育員ならいい表情をするけれど、初対面のカメラマンではめったにいい表情を見せないという難しさがあるのです。

 それでも鈴木とカメラマンは真夏の動物園に粘り強く張り込み、見事、女性をドキッとさせるクールな流し目写真や、子どもたちを優しく見守るダンディなシャバーニの姿を写真に収めたのでした。(後からわかった話ですが、慣れていない人間が近づいてきたからこそ、警戒心の強いシャバーニは鋭い視線でこちらをにらみつけてきたのだそうです) さらにそれぞれの写真には偉人たちの名言を添えて、よりシャバーニの凛々(りり)しさが際立つような仕掛けを盛り込むことに。

シャバーニの姿に添えられたダンテの名言
シャバーニの姿に添えられたダンテの名言

 企画から発売までの4カ月、その間の鈴木はまさにゴリラまみれ。机の上にはシャバーニの撮り下ろし写真が散乱し、さまざまな角度の流し目を見ながら、どれがいちばん彼の魅力がほとばしっているのか?を吟味し続けました。ときどき席の向かいに座る女性編集者に「ねえ。どっちの写真がかっこいい??」と尋ねて、「は?」と、口をあんぐりされることもしょっちゅう。

 「私は動物の写真集をつくってると思ってませんから。イケメンの写真集をつくってるんです」

 キリッとそう答える鈴木は本気でした。

鈴木の机にはシャバーニの写真が散乱
鈴木の机にはシャバーニの写真が散乱
盛り上がりすぎてネイルまでゴリラにした鈴木の指先
盛り上がりすぎてネイルまでゴリラにした鈴木の指先