これからの使命

 長年、フランスに住み、日本人でありながらもフランス人のように生きてきた松嶋。そんな松嶋には、料理を知る自分ならではの使命がある。

 「時代の流れもあるのでしょうけど、仲間のフランス人シェフたちが、ここ最近、日本やスペインをはじめとした諸外国の食材に影響を受けています。そんな時、『フランスにはこんなにいい食材があるんだから、フランスの食材を使いなよ』って言っています。

 またフランスのお客さんに『何で日本の料理とか日本の食材とか使わないの?』聞かれることもあります。そういう時は決まって、こう伝えています。

 『いつまでこの街に住めるか分からない。いつか日本に帰らなきゃいけなくなることもあるだろう。でも自分が好きになったこの街にいる限り、この土地の食材を使うことを、自分の1つの使命だと思っている。自分が好きな食材を使って、自分の好きなように料理して、お客さんが喜んでくれることをもっとしたい』

 そうすると、『お前の方がよっぽどフランスを知っている』と言われます(笑)。

 外国人だから気付くことができる、その国の良さがあると思うんです。実際、日本に住んでいる外国人の方が、僕よりも日本の良いところをいっぱい知っています」

 そんな松嶋は自らの使命を「食を通して、ニースと世界がつながるためのお手伝いをすること」と語る。

 「ここはそういう土地だし、それを求めるゲストもたくさんいる。そういう人たちにこの土地の魅力や、日本人としてのフィルターを通して表現されるものを感じてもらいたいんです。『日本の料理人って面白いな』と、ほのかに香る香水みたいな感覚の部分を、理解してもらえればいいかなと。

 フランス人になりきって生きてきましたが、日本のアイデンティティを忘れたわけではありません。フランス人になりきるというのは、あくまでも方法だったんです。

 同時に、世界と勝負したいと思ってくれる日本人を育てたいです。もっとチャレンジしてほしい。そうすることで日本にも貢献できるんだということを、自分が学べたので」