シェフの仕事の6割は、新鮮な素材を仕入れること

 ミシュランの星を獲得した同年、店名を松嶋自身の名前をストレートに示す「KEISUKE MATSUSHIMA」と改名した。この地で、これまで以上に根をしっかりと下ろす決意表明の証(あかし)だ。

 そして2009年春、東京・原宿にもレストランをオープンさせた。現在松嶋はオーナーシェフとしてニースの「KEISUKE MATSUSHIMA」をはじめ、合計3店舗のレストランを経営している。4店舗目も計画中だ。

ニースの「KEISUKE MATSUSHIMA」店内風景
ニースの「KEISUKE MATSUSHIMA」店内風景

 フランスと日本を毎月のように行き来する多忙な生活が続いている。また、国内外を問わず多数のイベントで声がかかる。

 それでも週に1回のメニュー考案は、松嶋自身が行っている。

 「ニースは自分のフィールドなので、ニースの店舗のメニューを考え、経営もすることは辛いと思ったことはありません。どちらかと言えば、楽ちんな方です。でも、それらを日本に帰って同じようにするのは、さすがにきつい(笑)。信用できる人に任せても、どうしても最終的には、僕が判断することになってしまう。

 スタッフの育成やマネジメントの仕方は、今後のテーマです」

 日本と同じくニースにも四季がある。メニューを考案する上で松嶋は、「市場への食材探しは自分が行かなければ始まらない」と言う。そしてシェフの仕事の6割は、新鮮な素材を仕入れることだと断言する。

 「ちょっとした季節の変化は、自分の肌で感じないとダメです。毎日市場に行くと、やはり新しい食材があり、そこには旬があることが感じられます。その年の気候が暖かかったり寒かったりで、味も収穫量も変わります。同じものを作れそうで作れなかったり、それも毎年違います。

 やはりマメに行ってその変化を理解していないと、ベストなメニューを考えられませんから」

 松嶋は料理にはアートとデザインがあり、その関係性を強く意識することが大切だとも語る。

 「アートは、そこにある『志』です。それを基に表現し、伝え、デザインすることが大切なんです。

 僕が料理を通じて伝えているのはニースであって、フランスです。特に、この土地のアートというのは、昔から続いている豊かな自然が導いてくれるもの、そのものです。

 それを現代人の味に合うようにデザインしたり、わざわざ遠くから来てくださる観光客の方に向けてデザインしたりする。または、元々その地元に存在しているアートをアレンジして、地元の人たちに提供する。すると、『あれ、自分が知っている料理が少し違うよね』と思ってもらえる。

 こんな格好で、アートとデザインの関係性を意識しているところがありますね」