得手でないところでこそ成長できる

――プロモーションチームのあと、子会社の「ディシラ」への出向、営業実績を買われての管理職登用、販社の支社長、そして本社のグローバル部門へと、次々と新しい業務に取り組んでこられましたが、戸惑いはなかったですか。

関根 ディシラへの出向を命じられたとき、実は泣いて拒否したんです。ディシラというのは資生堂の名を表に出さない新しいブランドの化粧品で、お客さまの認知度はゼロ。とてもゼロから立ち上げる自信がありませんでした。そのとき上司から「サラリーマンは自分の行きたいところに異動できるわけではないよ」と言われました。その通りなんですね。

 ディシラの営業は大きな壁の連続でした。取引のあったお店からも「資生堂の名を表に出さない商品は置けない」と拒否されて、どうしたら商品の良さをわかってもらえるのか悩みました。そして、つくづく思いました。これまでは資生堂のブランド力だけで仕事をしてきたのではないか、資生堂のバッジの力で信用してもらっていたのではないか、と。私自身がバッジを外しても信頼される人間でなくてはいけないと気づいたのです。商品の良さを知ってもらうために女性の多い職場を回ってサンプルをお渡しし、使ってみてくださいとすすめ、あとで感想を聞きに行きました。そうやって丁寧に接してお客さまになっていただく。信頼は積み上げて勝ち取るものだと学びました。

――配置転換によって、キャリアの幅と深さが広がると言われますが、女性は男性に比べて、配置転換が制限されて同じ職場に長くいることが多いですね。また、働く女性のなかには異動や転勤に抵抗がある人もいます。

関根 確かに自分の得手としないところに異動するのは気が重いですよね。でも、異動した先で自分でも気づいていなかった能力を発揮できたり、不得手だと思っていたことが達成できたりすると、それが喜びになり、やりがいになる。新しい仕事って自分を成長させてくれるものなのです。

 初めて管理職になったときもそうでした。管理職は権限が与えられる一方で責任も負わなければいけない。そのことを管理職になって初めて経験し、その立場にならないと見えないものがあることを知りました。同時に自分の足りなさにも気づきました。異動や転勤で経験する新しい立場は、視野や視座を高め、自分の存在価値を感じさせてくれるものだと思います。転居を伴う転勤も、環境が許すならどんどんチャレンジして、自分で気づいていない力を見つけるチャンスにしたらいいと思いますよ。

――関根さんも単身赴任を経験していますね。

関根 販社の支社長になった49歳のときから現在まで13年間、宇都宮、大阪、東京で単身赴任をしています。長男が大学生になって家を留守にできる状況になっていたこともあり、転勤の内示はすべて受けてきました。転勤した先には必ず新しい出会いがあり、そこで得たものはとても大きいですね。初めて本社勤務となり国際マーケティング部に来たときも、得手ではない英語を習得しようと猛勉強しましたが、得手ではないからこそもっと頑張ろうと思えるのかもしれません。

――単身赴任中のご家族との関係はどうでしたか。

関根 主人から毎晩のように電話がかかってきます。「おい、元気か」程度の安否確認です(笑)。2~3日電話がないと心配になりますね。ふだん離れて暮らしていますので、一緒にいられる時間は主人に嫌な思いをさせないように心がけています。喧嘩したまま別れると嫌な気分を引きずってしまいますから。