民法の「夫婦別姓制度」と「再婚禁止期間を定めた規定」が「憲法違反かどうか」を争う訴訟が、最高裁大法廷で争われています。いずれも12月16日までに判決が下される見通しです。前回の夫婦別姓制度に続き、今回は女性の再婚禁止期間規定について、日経ウーマンオンラインでおなじみのコラムニスト・深澤真紀さんにお聞きします。

●この人にお話を聞きました
コラムニスト・淑徳大学客員教授
深澤真紀さん


深澤真紀
ふかさわ・まき/1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。
卒業後、いくつかの出版社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役に。
日経ビジネスオンラインで2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞し、国内外で話題になる。
『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など著書も多数。
公式サイト:http://www.tact-planning.com
写真/bee(PIXTA)
写真/bee(PIXTA)

まずは民法722条の趣旨を理解しよう

 最高裁大法廷で審理中の「夫婦別姓制度」と「女性の再婚禁止期間を定めた規定」について、前回は「夫婦別姓制度」についてお話しました。今回は「女性の再婚禁止期間を定めた規定」について考えてみたいと思います。

 おさらいになりますが、民法733条は「女性は離婚や結婚取り消しから6カ月を経た後でなければ再婚できない」と規定しています。なぜ女性に限って再婚禁止期間を設けたのでしょうか。それを考えるには、民法722条の趣旨を理解する必要があります。

 民法722条1項は「妻が結婚中に妊娠した子は、夫の子と推定される」としています。ここは納得する人も多いでしょう。しかし続く同条2項が問題です。「結婚成立の日から200日を経過してから生まれた子、もしくは結婚の解消・取り消しの日から300日以内に生まれた子も結婚中に妊娠したと推定される」と定めているのです。

 離婚した女性がすぐに別の男性と再婚して、その後に妊娠・出産したと仮定しましょう。その子は「(現夫との)結婚成立の日から200日を経過してから生まれた子」であると同時に「(前夫との)結婚の解消・取り消しの日から300日以内に生まれた子」でもある可能性が出てくるのです。この場合、前の夫と今の夫、どちらが子の父親であるとも推定ができなくなってしまうのです。

 この民法722条2項はもともと、子どもに不利益が生じないようにする目的がありました。日本は家父長制だったので、離婚したら女性は家から追い出されてすぐに後妻が来ることも多々あったのです。結婚中に妊娠して離婚後に生まれた子どもを「おれの子ではない」と拒否をされたら困ることになりますよね。それを避けるために、女性に再婚禁止期間を設けて、子の父親をはっきりさせたのでした。

 繰り返しになりますが、この民法は117年も前に定められたものです。当時は生物学的な父親を証明することは、誰もできませんでした。DNA鑑定で親子関係が特定できるようになったこの時代に、女性だけが再婚期間についての縛りをかけられているのは不平等だと言わざるをえません。

 民法722条については、クローズアップされるニュースが最近報道されました。元・光GENJIで俳優の大沢樹生さんが、女優の喜多嶋舞さんとの間に生まれた長男について「親子関係の不在」を訴えた裁判です。東京家庭裁判所が先日、大沢さんの訴えを認めて「法律上の親子関係は存在しない」という判決を言い渡しました。DNA鑑定で「大沢さんは生物学的父親ではない」という結果が出たことに加えて、長男の誕生は結婚からちょうど200日目に当たったため、722条2項「結婚成立の日から200日を経過してから生まれた子」ではないと判断されたのです。このため1日遅く生まれていたら、違う判決内容になっていた可能性があるのです。

 民法にはほかにも、現代の時代背景を踏まえた議論を必要とする点が多々あります。