プロ野球の巨人次期監督に、40歳という若さの高橋由伸選手が決定しました。打診直後の硬い表情から一転、就任会見では晴れやかな笑顔を浮かべた高橋選手。女性活躍施策の流れを受けて「不本意にも昇進してしまった」という女性たちが、高橋新監督から学べることとは何でしょうか。がんばれ工房主宰・キャリアカウンセラーの錦戸かおりさんにご寄稿いただきました。

写真/Graphs(PIXTA)
写真/Graphs(PIXTA)

 巨人の高橋選手が、監督就任を打診された直後の報道を見ましたが、そのときの彼の表情を私は忘れられません。あの渋い表情…まだ現役選手でいたかったのでしょう。監督になんか、まだなりたくなかったのでしょう。でもその数日後の就任会見では、実にすっきりした表情になっているではありませんか! 「おぉ、腹をくくったのね!」と小さくエールを送りながら、その背景にあるものを考えてみました。

高橋選手が「腹をくくれた」その理由とは?

 高橋選手にインタビューしたわけではないので、あくまでもキャリアカウンセラー視点からの解釈なのですが、背景には男性社会ならではの「組織の仕組みや昇進の意味」があると感じています。

【1】男性にとって管理職は当然目指すべきもの

 「管理職への打診」は女性の転職相談の理由として、ここ数年増えているテーマです。

「このままこの会社にいると管理職にならざるを得ないので、転職をしたほうがよいのではないか…」

 多くの相談者が口にします。「なぜ、私?」と。

 男性の場合は、入社当初から管理職になることを期待され、無意識のうちにそのための教育を受け続けます。そして本人も自分と周りを習慣的に比較します。「同期の○○に抜かれた!」とか「次は俺?」といったセリフをよく耳にしますね。

 一方、女性は目の前の仕事に集中する方が得意です。いかに早く質のよい仕事をするか。次の工程の人がやりやすくできるか。そういった目の前にある仕事の質を高めるのは得意ですが、まさか自分に白羽の矢が立つとは思わず、突然降ってきた人事のように感じることが多いのです。心の準備ができていないのですもの、びっくりして当たり前でしょう。

 話を聴いてみると、管理職を勧めたくなる仕事ぶりなのですが、ご本人はその理由が分かっていないケースが多く、その場合は上司に理由を聞いてみることをお勧めしています。女性には「理由」がとても大切なのです。

【2】男性にとって管理職への打診は「認められている」ということ

 でもきっとね、理由を質問された上司は少しひるむのではないでしょうか。なぜかというと、男性部下はそんな理由を聞いてこないからです。

 今回の高橋新監督の一件で、ある男性が言いました。「長島茂雄さんから『よろしく』と言われたら、やるしかないでしょ」と。そう、男性の場合は尊敬する人や上司から言われたら、それは「認められている」とストレートに評価を受け取ることができます。また、縦のラインを重視する体育会系の香り漂う「上下関係」も、打診を受け入れやすくさせる要因でしょう。

 一方、女性は尊敬する人からプッシュされると、却ってそれがプレッシャーになることが多々あります。また、管理職になることが「当たり前」ではない女性たちにとって、昇進への打診は「負担」と捉えてしまうかもしれません。

 女性活躍を推進する風潮は盛り上がっています。数値目標が設定されて慌てて取り組みを始めたり、流行に乗るような感覚で女性管理職を作ろうとしている企業もあるなかで、昇進して「犠牲者」になったように感じている人も多くいます。でもね、他にも女性がいる中であなたが声をかけられた理由は必ずあります。それを理解して、せっかくのチャンスなので一度は試してもらいたいなと思います。