寄り添おうとしているのに、部下がどうしても振り返ってくれない。そんな経験を持つ女性管理職に向け、林さんは最後にこんなエピソードを話した。

 ファーレン東京(現フォルクスワーゲン東京)の社長にスカウトされた林さんは、成績の振るわない支店の再建を期待された。

 生え抜きでもない見知らぬ女性社長に対し、生え抜きの男性の支店長は反感を抱く。経営会議でも聞く耳持たず、食事に誘っても上の空。それでも林さんは声を掛け続けた。しかし、どうしても寄り添うことはできず、悔しさが募った。そんな折、BMW東京に再スカウトされ、林さんはファーレン東京を去ることになった。

 男性支店長は最後まで林さんに心を開かなかった――ように思えた。4年で再建に成功した林さんが同社を去るとき、思いもかけないことが起こった。「彼は、最後の最後、私にこのような言葉を贈ってくれました。『林社長。私は今、あなたがたった一人でこの会社に来た日のことをはっきりと思い出しています。そしてまた、あなたはたった一人でこの会社を去って行かれます。あなたはその胸の中に人生の羅針盤を持っている人だ。その羅針盤の示す通り、あなたはまた歩いて行かれます。私もこの胸に、あなたと同じように羅針盤を持つようになりたいと思う。長い間のお教え、ありがとうございました』」

 林さんは、彼が振り返ってくれないことがとても苦しかったという。でも、ひたすら向き合おうとした。「彼もまた、折り合いの悪い上司に対し、本当に辛い思いを抱いていたと思うんです。でも、最後に最高のはなむけの言葉を贈ってくれた。女性はすぐに成果を求めがち。寄り添うから寄り添ってもらいたいと思ってしまうが、男性は寄り添わないし寄り添ってもらわなくてもいいと思う。でも、実は深く物事を考えている」

 その後、工場長になっていた男性と久しぶりに会った林さん。彼は満面の笑顔で駆け寄ってきた。「社長、僕今、社長に言われたことを実践しています。一対一で向き合うことは、やはり正解でした。いつも頑張ってくれているメカニックに声を掛け続けたら、業績が上がったんですよ!」

 現在、林さんは市政にも女性の強みを最大限に活かしている。「18ある区役所すべてに赴き、職員に対し『私もあなた方の仲間です』と、チームで市政を行っていることを語りかけました。さらに、『区民はお客様である』とも言い聞かせました。おかげで、窓口業務に対する区民の満足度は、60%から94%にまで上がりました」

 強さばかり求められがちな世界を、心豊かな世界に変えるのは女性である。それを身近な男性に分かってもらうことが女性の務めだと、林さんは最後に締めくくった。

林文子さんご登壇決定!
日経WOMAN Networkingフォーラム開催


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取材・文=西尾英子、写真=菅原ヒロシ

2012年11月26日の記事を加筆・再掲載