人気が下火になった時期に救われた人のやさしさ

――今回書店でのサイン会を予定されているそうですね。ミニライブでネタまで観られる上に、プレゼント抽選会もあると。しかし第一弾が静岡の書店で行われる、というのを不思議に思いました。

 静岡に書店のチェーン店で「戸田書店」というところがあるそうなんですね。

 5~6年前のことだったかな。掛川市にある戸田書店の掛川西郷店が、出版社がすでに絶版にしたような昔の僕の本まで置いて、ヒロシのコーナーを作ってくれていたんですね。

 そんなコーナーをつくってくださっている写真を、Twitterで偶然見つけて、僕が「ありがとうございます」ってリプライを送ったんです。僕がブレイク中の第一線をいく芸人ならばいざしらず、人気が下火になって、テレビにはもうすっかり出なくなっていた時期なのに、嬉しくてね。

 次になにか書店でイベントをやれるような機会があれば、ここでやろうって決めていたんですよ。

――書店のかたも、まさかヒロシさんが写真を見つけて、自らお礼を言ってくださるなんて思いもよらなかったのでは?

 店長さんがファンというか、僕の芸を好きでいてくださったみたいですね。そんなありがたいコーナーを設けてくださっているなら、そこに置くのにサイン色紙でも書きましょうかって、僕から言ってお送りして。でもお会いするのは、今回のサイン会当日がはじめてなんですよ。

――心温まるお話です。初対面、楽しみですね。

 僕はコーナーを設けてくれている掛川西郷店でやりましょう、って言ったんですけれど、静岡駅前にある静岡本店が規模が大きいしアクセスもよくて、お客さんに集まってもらうのに一番いいからって言ってくださって。

 会社の上の人から、本店でやるようにって言われてるんじゃないか、心配になって聞いたんですよ。会社って、そういう上の人の意向とかってあるものでしょう? 半年くらいだけれど、僕も会社員の経験があって、頭痛に苛まれた日々だったから。

 僕は掛川西郷店でだって、やりたいからいいですよって聞いたんですけれど、そうじゃないですって言ってくれて静岡本店でイベントをやることが決まりました。



 ヒロシと書店の交流に胸が熱くなり、筆者は書店担当者に電話でお話を聞いた。

 「ヒロシさんをお迎えするにあたって、静岡駅前にあってアクセスもよく人が集まりやすい、グループ店舗内最大の静岡本店をご用意しないことは、ヒロシさんのご厚意に対して失礼にあたると、僕は思ったんです。

 またTwitterを介してヒロシさんとの交流がはじまった当初は、僕は掛川西郷店の店長。一店舗の店長にすぎませんでした。でもいまはエリア長になれた。だからこそ実現できたことでもあります」(戸田書店・高木さん)

 絶版されたヒロシさんの本を置くために、まず掛川西郷店では古物商許可を取得。古物商許可を得なければ、絶版本を取り扱うことができないためだ。

 毎年8万点もの出版物が発行される出版業界。

 「書店が本当に売りたい本を置く、という能動的な姿勢を持たなければ、どこの書店に行っても売り場に置かれている本は変わりない、ということになる。まるで金太郎飴のように。僕は書店員として本当に読んでほしいと思う本を、もっと能動的に売り場に置いていきたい。そのひとつがヒロシさんの本でした」

 社内はもとより出版社にまで働きかけ、奔走した理由を尋ねると――「男なのにおかしいですが、惚れたんですね(笑)。ヒロシさんの芸のアドバンテージの高さ、どうにも隠せない人のよさ」

 ヒロシとは筆者も長い付き合いで、取材もたびたび行ってきた。そのたびに驚かされるのが、記事が出るたびに「ヒロシさんをこんなふうに書いてくれてありがとう」と、筆者にまでメッセージをくれるファンがいることだ。

 そんな繊細であたたかい気持ちを持ったファンに応援されている芸人・ヒロシ。

 彼自身が、人の心の襞を掬い取る繊細さを持ち、それが芸に表れているからではないだろうか。。