ここ最近でネット上で話題を呼んだ牛を擬人化したCM動画。さまざまに受け取れるこの動画、観賞すると、何とも言えない後味の悪さが残ります。この動画になぜ人々からの批判が殺到したのか、一歩引いて、改めて、健康社会学者の河合薫さんに考察していただきました。

 牛を擬人化したCMが、ネット上で物議を醸している。タイトルは『“挽きたてカフェオレ「旅立ち」篇”』。2014年11月にWEB限定で公開された、AGFの“ブレンディ”のCMである。

 一年も前のCMが騒ぎになったのは、先月シンガポールで開催された広告コンテストで銅賞を獲得したこと。動画が海外で瞬く間に炎上し、日本に逆輸入されたのだ。

 で、その内容とは……(実際の映像を見たい方は「ブレンディ CM」でググってください。日々削除され続けていますが、見つかると思います!)

 舞台は、鼻に輪っかをつけている高校生たちの「卒牛式」。生徒たち一人ひとりに、証書が授与され、進路が告げられるというストーリーだ。

 動物園に行くことになり喜ぶ女子生徒、闘牛場だと告げられ暴れるヤンキー男子生徒……。
 「自分の望み通りの道を歩める者もいれば、そうでない者もいる」「進路はときに不平等な現実を突きつけてくる」というナレーションが流れ、その直後、食肉工場に出荷が決まった男子生徒が「うああああ」と、泣き叫ぶシーンが映し出される。

 そして、主人公の女子高生が呼ばれ(ちなみに全員“番号”で呼ばれている)、いよいよ卒牛証書が授与されることに……。

 彼女は「特別な存在になるために」、毎日、必死で食べ、勉強し、ランニングし、がんばってきた。「まだ薄いって言われちゃった」と泣きじゃくる彼女を、「胸を張って生きなさい」と励ます母。胸が強調されるTシャツ姿で、母の言葉を胸にランニングする彼女。(注:ここはすべて回想シーン)

 場内に緊張が漂う中、告げられた配属先は……、
 『ブレンディ!!』

 涙を流し喜ぶ女子高生に、男性の校長が一言。
 「濃い牛乳を出し続けるんだよ」ーー。

「ブレンディ、ミルク広がる挽きたてカフェオレ。特濃牛乳を100%使用しています」(ナレーション)。

 文字だけでどこまでニュアンスが伝わったか自信がないのだが、ネットでは、
 「気持ち悪い」
 「生徒に番号つけて呼ぶって、何コレ?」
 「牛を擬人化って悪趣味」
 「鼻輪がイヤ」
 「男女差別だ〜」
 「外見で差別するな!」
 「セクハラ」
 「校長の一言がグロい」
 などなど批判殺到。

 中には、「作品としてはおもしろい」といった好意的な意見もあったが、大半は批判的内容で占められた。

 大抵、この手の炎上騒ぎには問題になるシーンや言葉があるものだが、このCMには「ここ!」と言い切れるところがない。至る所に「なんでやねん?」が散りばめられていて、いろいろな人たちが、それぞれの立場で、さまざまな価値観で、CMに「ノー!」を突きつけたのである。

 かくいう私は……、まっ先に浮かんだのが、福島県の川内村の村民たちの言葉だった。