長年使い続けた冷蔵庫がついに壊れてしまいました。生活必需品なのですぐに買い替えなくては!と家電量販店に足を運び、数あるなかから手頃なサイズの2種類(A・B)に絞り込みました。価格はAが10万円、Bが9万円。差額の1万円の違いがよくわからないので店員さんに聞いてみることにします。

 「AはBの冷蔵庫に比べて、省エネ効果が高いのが特徴です。年間の電気代にすると、3000円くらいの開きがあります。ただ、BはAよりも冷凍室が大きめだったり、冷蔵室のドアが左右開きだったりと使い勝手がいいので、こちらを選ばれるお客様もいます。何を重視するかが決め手になるかと……」

 さて、費用対効果が大きいのはどちらでしょうか。その場の損得だけで決めるなら明らかにBですが、3年以上使いつづけるなら消費電力の少ないAのほうがお得ですよね。冷蔵庫は頻繁に買い替えるものではないので、Aを選ぶのが賢い選択といえます。ただし、これはランニングコストに限定した場合の“正解”です。もし、冷凍庫に入れたくても入らなくて食材をムダにしてしまったり、動線上、片方しか開かないドアに不便を感じたりするとしたら、Bを選ぶほうが得策かもしれません。

 このように費用対効果は、どこからどこまでが「費用」で、どの部分を「効果」とし、それに基づいてどう計測するかによって結果も変わってきます。目先の利益にとらわれず、長期的な視点や優先課題も意識して、自分にとって最大のリターンが見込めるほうを選びましょう。

相談者:そういうことだったんだー。ワインに詳しくなれたら、友達に自慢できるイメージがあったんですけど、それ以上の効果があるかと言われたら……。ヨガも、楽しそうで健康的っていう以上は先々の効果なんて考えてもみませんでした。

チエ先生:決してヨガやワインを習うことがいけないわけじゃないのよ。何かを学ぼうとする姿勢はとても大事だから、その意気込みと将来につながる自分磨きがうまく結びつけられれば、さらに良いと思うの。たとえばあなたが将来的にワインの輸入にかかわる仕事をしたいっていうなら、とても費用対効果が大きい選択だと思うわよ。

相談者:確かにそうですね。でも先生、将来のために貯金するのは費用対効果として悪くないと思うんですけど……。

チエ先生:じゃあ、こう考えてみて。月々2、3万、1年で20~30万円になるその蓄えがあなたの将来にどういう影響をもたらすか? もちろんいざという時に最低限のお金があることは重要だけど、将来に対する漠然とした不安を解消したいだけでとりあえずという気持ちで貯金するだけなら、何か目的をもって将来に直結する習い事を早いうちから始めるほうが、限りある時間とお金の使い方として建設的じゃないかしら?

相談者:その通りです……。将来に結びつきそうな費用対効果の大きい習い事かー。今の私にとって、何をするのがいいんでしょう?

チエ先生:今の仕事に慣れてきたなら、もう少し仕事の幅を広げられるようにスキルを伸ばすことに挑戦するのもいいんじゃない? 長い目でみると、期待できるリターンは月々2、3万の貯金より大きいはずよ。

相談者:そっか! 私、日々の生活を充実させるという範囲の中でだけ考えていました。この先の自分の人生にとって大切なこと、つまり未来に対して投資するという考え方も大切なんですね。今やっている採用活動の仕事で考えてみると、もっと企画的な仕事もやってみたいので、広報や宣伝のノウハウを学んでおくのが有効かも。

チエ先生:それはいいわね。まずはそういうジャンルを具体的に教えてくれる、セミナーや講座の情報を探してみることから始めてみたら?

相談者:はい。なんだか将来がパァッと明るくなった気がします。先生からタダでアドバイスをいただいたこの一瞬の費用対効果は計り知れませんね!

目線を先に、焦らず考えてみましょう

 選択肢が無数にある中で、メディアや企業が消費者の私たちに選んで欲しいと必死になるのは当然のこと。でも、だからこそ限りあるお金や時間をムダにしないためには、広告や評判を鵜呑みにするだけではなく、まず自分がどうなりたいかを明確に意識し、自分にとって何が効果的かを冷静に考えることが大切です。

 とはいえ、いくら考えても自分の方向性がはっきりしないときだってありますよね。そういうときは周りのアドバイスにも耳を傾けながら、もう一度自分自身を掘り下げてみましょう。

 みんなが驚くような突飛な行動に出なくても、マナミが日々の仕事の中から可能性を見つけたように、自分の目標や手に入れたい生活に結びつく行動は身近なところにあるかもしれません。答えを焦らずに、3年先、5年先の自分とじっくり相談してください。

 最近では「コストパフォーマンス」と表現されることも多くなった「費用対効果」は、本来、企業の設備投資額や宣伝活動費などを決める際に欠かせない指標です。詳しく学べば、仕事はもちろん、暮らしや人生のコストパフォーマンスも格段にアップします。

監修者:西口敦

グロービス経営大学院・マナビプラスの記事を転載