出産後の骨盤の開きや、尿もれに悩んだとき、世界ではどんな骨盤ケア、骨盤底筋ケアが行われているの? 6カ国の実情を現地で働く日本人医師などに教えてもらいました。

【シンガポール】ジャワ式・マレー式の産後ケアが人気

 シンガポール女性の多くが利用しているのが、産後の訪問マッサージ。マレー式やジャワ(インドネシア)式のマッサージを、産後1週間くらいから数日間、自宅で受けます。特徴的なのは、マッサージ後に腹部や骨盤まわりを長い布で巻くこと。腰まわりを締めることが骨盤を調整し、母体の回復を助けると考えられています。

 また、日本人よりシンガポール人のほうが、産後の夫婦生活に重きを置く傾向があります。膣弛緩症や尿失禁、性器脱を治療する「膣内レーザー治療」を、産後の夫婦生活を改善する目的で受ける女性もいるそうです。

(長谷川裕美子=ラッフルズジャパニーズクリニック産婦人科)

シンガポールでは、出産後の骨盤の開きは布を巻くことで対処します
シンガポールでは、出産後の骨盤の開きは布を巻くことで対処します

【スウェーデン】「膀胱ボトックス」など先進ケアも

 女性の尿失禁も含めた骨盤底筋ケアについて、首都ストックホルムのカロリンスカ大学病院では主に看護師が担当しています。TENS(経皮的電気神経刺激)治療という、下腹部などに電極を貼って膀胱や骨盤底筋を刺激する治療も行っています。

 医師が行う施術では、膀胱が過敏に動くために起こる失禁(過活動膀胱)に対して、筋肉を弛緩させるボトックス(ボツリヌス毒素)を膀胱内に注入するといった、日本では保険適用外の治療も広く実施されています。

(宮川絢子=カロリンスカ大学病院泌尿器科)

【オーストラリア】骨盤の悩みは家庭医に相談!

 オーストラリアには、GP(家庭医)という制度があります。GPとは、地域住民のさまざまな病気やけがを診察・治療し、必要に応じて専門医に紹介する医師のこと。住民には「何かあったら、まず地域のGPを受診する」という原則があります。妊娠も例外ではなく、まずGPを受診、産婦人科病院の妊娠外来を紹介してもらいます。

 出産は病院で行いますが、入院日数は短く、その日のうちに退院することも。そのため、産後のメディカルチェックはGPと連携している助産師が自宅に訪問して行います。通常、退院から24時間以内に訪問し、子宮の状態や出血の程度、赤ちゃんに異常はないかなどを確認。必要に応じてGPに相談するようアドバイスします。

 GPと助産師は、妊娠中から産後まで、協力しながら妊産婦の教育やケアをします。産後にどんな問題が起こり得るか、どう対処するかという情報を妊娠中から提供し、心構えと、何でも相談できる素地を作っておく。それにより、尿もれなど産後の骨盤・骨盤底筋トラブルの多くをGPでケアできるのです。

 GPでは解決できない便失禁や尿失禁に悩む患者さんは、老若男女にかかわらず、総合的にケアする「骨盤医療センター」に紹介します。そこにはウロギネコロジスト(女性泌尿器科医)や泌尿器科医、大腸外科医、理学療法士、泌尿器専門看護師などの専門家がそろっていて、1カ所で専門的な診断やケアを受けることができます。

(小林孝子=ビーンリー・ロード・メディカルセンター家庭医)

病院の妊娠外来の紹介や訪問助産師の派遣など、妊産婦に必要なケアは家庭医がアレンジしてくれます
病院の妊娠外来の紹介や訪問助産師の派遣など、妊産婦に必要なケアは家庭医がアレンジしてくれます

取材・文/内山郁子(編集部) イラスト/藤田ヒロコ

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