なぜ謝罪ですれ違ってしまうのか

失敗しない謝り方とは

 前ページで述べたように、謝罪のエンパワーメント効果や知覚の妥当化によって、「まず相手の不快感情を低減させ、安心させることがトラブルを深刻化させず、解決に導く秘訣である」と著者はまとめています。

 上の遅刻の例では、彼は「(1)弁解(=自分の印象改善)」を最優先して、「(4)謝罪(=彼女の不快感情の低減)」を二次的な扱いにしています。二人の信頼関係にとっては弁解も必要なのですが、まず誠心誠意謝って、彼女の気持ちが収まってから遅れた理由をきちんと説明すべきだったように思われます。もちろん、これは男女が逆の場合も同様です。

 ただ難しいのは、おそらく彼の中では上の言葉で「ふつうに謝った」気になっているだろうという点です。したがって、そこで彼女が不満をぶつけた場合、「謝ってるじゃん!」と逆ギレされたり、内心で(仕事だって言ってるのに……)と思われたりする可能性もあります。

 それを避けるためには、感情的になるよりも、「弁解するよりも、まずは私の気持ちを優先してくれてもいいんじゃないの?」と冷静に指摘する方が効果的だと思います。

とりあえず謝ればいいのか!?

 ただし、いくら謝罪が有効だからといって、「なんでもかんでもとりあえず謝ればいい」というものではありません。自分が悪くない時は丁寧に「否認」や「正当化」の説明を行い、相手の理解を得る努力をすべきでしょう。

 また、「とりあえず謝る」という態度は、カップルや夫婦のコミュニケーションではネガティブに働くこともあります。最後にこのことについて考えてみます。

なぜ「とりあえず謝る」は失敗するのか

 パートナーとトラブルになった時に、「とりあえず謝る」という態度は、一見すると「いい人」っぽくて良さそうなのですが、ネガティブな影響が出ることも多いように思います。

 実際に、揉め事になるとすぐに謝って「まるくおさめよう」とする彼の態度に余計腹が立ってケンカがヒートアップしてしまう、という女性の話を聞くことがあります(もちろん男女が逆のケースもあるのでしょうが、筆者は寡聞にして知りません)。これも「謝罪の失敗」のひとつです。この場合は、なぜ前ページで紹介したような「謝罪の効用」が働かないのでしょうか。

 まず、揉め事になった時に「とりあえず謝る」男性は、「相手がなぜ怒っているかよくわからない(考えようとしない)」可能性が高いのではないかと思います。謝罪以外の釈明(否認、正当化、弁解)を行うには、相手を納得させられるだけの根拠を示す必要があります。けれども「相手がなぜ怒っているか」わからないと根拠は示せませんし、見当違いの弁解や正当化でより怒らせるリスクも高くなります。それで「とりあえず」謝っちゃった方が傷が浅くてすむだろうと考えるわけです。

 しかし、謝罪は「他の釈明(否認、弁解、正当化)に当てはまらない」という判断のプロセスを経た結果として、自分に責任があると認めることです。したがって謝られる側は、謝っている相手が「なぜ責任があるのか」を把握しているはずだと、当然考えます。

 ところが判断のプロセスをすっとばしている彼は、このことがわかっていません。それを彼女が感じ取ると、次のような言葉が飛び出します。

「謝ればいいと思ってるんでしょ? 私がなんで怒ってるのか、言ってみてよ!」

 ……その後は推して知るべしです。男女のケンカの場合、どちらが悪いとはっきり決められない場合も多く、そもそもそれが問題ではないことも多々あるため、「とりあえず謝る」ことは、まるくおさめるための方法としてはあまり優れていないと言えそうです。