自分の欲望だけが知っている

■自分の欲望を見つめ直す

 だから、どんな種類のものであれ、恋愛の悩みを抱えている女性には本書をオススメしたいと思います。本書を読んで野枝のまっすぐな欲望を知ることは、複雑化した状況のなかでとらえ損ねがちな“自分の欲望”を見つめ直すきっかけになるはずです。

 くり返しになるようですが、私は野枝のような恋愛や不倫を勧めたいわけではありません。野枝とは真逆の恋愛観でも、自分の欲望が結婚することだったら婚活に邁進すればいいと思いますし、男性に尽くすのが好きで仕方ないのならば存分に尽くせばいいと思います。

 失恋ホストでは、自分とは価値観が異なる女性の相談に乗ることも多く、相談者さんの言動や考え方にまったく共感できないこともあります。しかしそんなケースでも、一緒になって恋愛の迷路を進み、“相談者さんの欲望”にたどり着けた時には、それを全面的に応援したい気持ちが湧いてきます。我々の価値観や、あるいは世間的に見てナシだろうがアリだろうが「やりたいようにやる」ことが一番です。

 自分の欲望こそが、恋愛の迷路から抜け出す扉なのだと思います。

■相手の欲望を尊敬すること

 一方でおさえておきたいのは、恋愛が自分の欲望と相手の欲望が交錯するところで行われるという点です。

 そのため、自分の欲望を追究していくと、相手にもまた欲望があるという当たり前の事実にぶつかり、そこで一度立ち止まって真剣に考えざるをえなくなるのです。野枝は、「自分のわがままを尊敬するように他人のわがままも認めます」と明言しています。相手を支配しようとしないこの態度には、奔放さと表裏をなすようなおおらかさがあります。

 そしてこの“自分と相手のわがままを尊敬する”という姿勢こそが野枝の恋愛論の核心に接続していくのですが、そこは本書のクライマックスなので紹介することは控えます。ぜひ実際に読んでみてください。

 また、生涯「わがまま」を貫き通した野枝ですが、特別に豊かな環境に恵まれていたわけではないということもつけ加えておきたいと思います。むしろほとんど常にお金がなかったのですが、「たよれるものはなんでもたよって、なんの臆面もなく好きなことをやってしまう」のです。なぜそんなことが可能だったのか、本書で確認してみてください。