パートナーとのコミュニケーション不足に苛まれる原因とは

働くこと以外に何をすればいいかわからない男たち……(C)PIXTA
働くこと以外に何をすればいいかわからない男たち……(C)PIXTA

田中 以前、既婚女性向けに男性学の市民講座をやったことがあるんですが、そのとき「夫のいいところを書き出してみましょう」というワークをやったんですね。そしたら、「馬車馬のように働くところ」という回答があった。馬車馬ってもはや家畜ですよ(笑)。さすがに「そこは“一生懸命”って書いてよ……」と思いましたが、家庭においてすら過度に働くことを期待されている。なかなか切ない現実です。

森田 要するに、たくさん働いてお金を運んでくれってことですよね。

佐藤 昔から「亭主元気で留守がいい」と言うけれど、これってそういう意味の言葉なのかもね。実際、これまで話を聞いてきた既婚女性にも「夫はお金さえ入れてくれれば外で浮気しててもまったく構わない」と考える人も少なくなかった。

清田 確かに収入面や信頼感という視点で見れば「たくさん働く男」の方が安心だとは思う。でも一方で、忙しい男性は家庭とのコミュニケーション不足に陥る可能性も高いとなると……。

田中 なかなか難しい問題ですよね。

森田 以前、とある夫婦のこんなエピソードを聞いたことがあります。その夫はある時期、会社の重要なプロジェクトを任されて毎日深夜まで働いて、疲れとストレスで家ではふさぎこんでいたらしいんだよね。それがある日晴れ晴れとした顔で帰宅して、「プロジェクトがうまくいったぞ!」と言ってきた。でも、妻からしたら具体的なプロセスは何も共有してないわけだから「よかったね」としか言えなかった。そしたら夫は、「何だよ、その薄いリアクションは!」とプンプン怒り出した。

佐藤 改めて聞くと無茶苦茶な話ですね……。

森田 おそらく旦那さんのなかには「俺はあんなにがんばったのに」っていう気持ちがあったと思うんだよね。せめて大変な時期に弱音や悩みを奥さんに打ち明けてれば、一緒に喜んでもらえたんじゃないかなとも思う。

佐藤 でも、旦那さんの気持ちもちょっとわかるような気もする。私も結構このタイプなんですが、男性には「努力や成長の“報酬”として女子からのモテがついてくる」と考える人が多いじゃないですか。

清田 好きな女の子に振り向いてもらうために部活をがんばる、みたいな?

佐藤 そうそう。この旦那さんも似たような発想をしていたんじゃないかな。仕事をがんばることは、ひいては家族のためでもある。正しい努力をしていれば妻は俺を認め、信頼してくれるはずだ──。そういう考えがどっかにあったんだと思う。

清田 でも、本当に「家族のため」と言うのなら、妻としっかりコミュニケーションを取ることの方がより直接的な努力になるはずだよね? 黙々と仕事をがんばるよりも、仕事の内容や進捗、人間関係や自分の心理状況などを逐一共有していく方が家族としても関わりやすいし、安心でしょ。

佐藤 そうなんだけど、一人で苦境に耐えて、無事に乗り切った姿を見せたいんだよ。それで女の人に「よしよし」って褒められたいんだよ。

清田 う~ん。

田中 確かにこの社会には、例えば甲子園やインターハイ、一流大学や大企業など、社会で価値があるものを達成することを「男らしい」と評価する風潮があります。そのことと「人とどういい関係を作るか」はまったく別次元の問題のはずなのに、なぜかそれらをイコールで結んでしまっている男性が少なくない。ここも興味深いポイントですね。