実は超すごい“触覚”というセンサ

■触覚は何を感じ取っているのか

 触覚とは言うまでもなく五感のひとつです。「視覚は光を、聴覚は音を感じ取るもの」ですが、では触覚が何を感じ取っているのかというと、意外にわからないような気もします。

 本書によれば、それは「皮膚の変形」なのだとか。

〈より正確には、皮膚に入り込んだ末梢神経の先端にある触覚のセンサが、圧力や振動によって細胞が変形したことを感じ取っているのです〉

 皮膚には圧力や振動、伸縮や滑り具合に反応する数種類のセンサが埋め込まれており、それらが組み合わさってひとつの触感が構成されている。今まさに触れているスマホやパソコンの触感も、シャツやパンツの触感も、こういった皮膚の変形によって感じ取られているものだそうです。

 そんな高度なセンサが全身(その面積は約畳一畳分)に備わっていると思うと……「触覚、侮り難し!」という気持ちになってきます。

■触覚は原始的で鋭敏なセンサ

 触覚は、五感の中で最も発達が早いとか。生まれてから徐々に発達していく視覚や聴覚に比べ、触覚に関しては、何とお腹の中にいる妊娠10週の頃からすでに「自分の身体や子宮壁に触れるという行動が見られ、学習が始まっている」そうです。

〈生まれたばかりの赤ちゃんは好奇心いっぱいで、なんにでも触れたがります。赤ちゃんにとっては触れること、舐めることの方が、見る/聞くことより、確かな情報を得られるからです。小さい頃は、だれもが触覚的な存在だったのです〉

 前述の通り触覚は全身に備わるセンサであり、しかもその精度は素足で「数十ミクロン」の太さしかない髪の毛を踏んでも感知できるレベルだとか。

 私たちの中にこんな高性能のセンサが備わっていたとは……。そう改めて考えてみると、赤ちゃんが何でも触りたがるのも納得だし、これをさほど意識せずに生きていることが、何とももったいなく思えてきました。

■触覚の錯覚と心理作用

 本書では、この触覚にまつわる興味深い事例がいろいろと紹介されています。

 そのひとつが“錯覚”で、触覚も目や耳と同じように“触り間違い”を起こすことがあるそうです。例えばテニスのガットを両手で挟み、重ね合わせた手でガットの表面をなぞると、不思議と「ヌルヌル」したベルベット生地のような触感が手のひらに広がると言います(これは研究者の間で「ベルベット・イリュージョン」と呼ばれている現象だそうです)。

 おもしろい事例は錯覚だけにとどまりません。何と触覚は、心理状態とも密接な関係があると言います。

〈心理的な状態や抽象的な物事を認識する際、身体的な知覚が基礎になっている可能性があることが、脳科学の領域でも少しずつわかってきました。(中略)心が「ざらざら」しているとき、実際に触感として「ざらざら」を感じているかもしれない、ということです〉

 触り間違いが生じたり、知らずの内に心理状態にも関与していたり……触覚とは、思った以上に不思議なもののようです。