“ジャグリング男子”との上手な付き合い方とは?

■問題は「時間」ではなく「処理能力」の不足

 Sは当時のことを、「訓練はきついし、その後に控える試験は『不合格なら失職する』から勉強にも必死で、そこに結婚式の手配が重なって、自分のキャパを完全に超えていた」と振り返っています。

 ジャグリング男子に「新たな課題」を突きつけることは、必死なジャグラーに向かってもうひとつ玉を投げ入れることと同じです。とはいえ、「だから彼女や妻が後回しになるのを我慢せよ」というのでは、何の解決にもなりません。大切なのは、何が問題なのかを正確に捉えることです。本書では次のように述べられています。

〈人はスケジュールを立てるとき、処理能力を見落とすことが多い。普通考えるのは、やることリストを片付けるのにかかる時間であり、それにかかる処理能力、あるいはかける処理能力ではない。〉
(本書p.250)

 多くの場合、問題なのは「時間」よりも「処理能力」の不足だと言えそうです。ある調査によると、ふだんは子どもに対して真摯に向き合う「良い親」である人物も、仕事が多忙になると子どもをほったらかす「悪い親」になる傾向があるといいます。

 「良い親」でいるための「心がけ」を実行するには、処理能力が必要なのです。これは「良い恋人」も同じだと思います。

■「ほったらかし」を防ぐための方法

 トンネリングによる「ほったらかし」を防ぐために、著者は次のような方法を提案しています。

〈トンネリングはほったらかしを誘発するので、ほったらかされがちなことを一回限りで解決できるようにすることは、とても効果的と考えられる。必ず子どもと時間を過ごそうとしても、あなたの心がけ頼りではうまくいかないが、週一回の親子活動に参加申し込みすれば、毎週最低限のすばらしい時間をともに過ごせる。〉
(本書p.271)

 ここで私が思い出したのが、桃山商事のもう一人のジャグリング男子・清田代表とその彼女のことです。清田はフリーのライターなので、仕事の管理を全て自分の「心がけ」だけで行わなければならず、これは普通の会社員よりもジャグリングしやすい環境です。実際に、過去の恋人との付き合いでは、「いつ会えるかわからない」ことが大きな問題となっていました。

■うまくいった“朝活”

 清田と現在の彼女は付き合い出してからほどなくして、平日の出勤前の早い時間に、とある駅近くのカフェでデートするようになりました。2人はこれを“朝活”と呼び、平日は毎日行っています。おしゃべりすることもあれば、それぞれ仕事や読書をするだけのこともあるそうです。

 2人が朝活を始めたとき、私は「いつも『時間がない』清田が、続くわけないよ」と密かに思っていました。ところが驚いたことに1年以上続いており、2人の関係も大変良好な模様です。

 この朝活が成功しているポイントは、最初に「平日は毎朝やる」というシンプルな運用方法を決めたことで、スケジューリングの必要がなくなった点だと思われます。スケジューリングするには処理能力が要りますが、ジャグリング状態にある人はまさにそれが不足しているからです。

 仕事で忙しくなって何も考えられなくなっても、朝起きてとにかくあの店に行けば彼女に会える……。なんて贅沢な環境でしょうか。

 とはいえ起きられない時もあるようですし、時間などの微調整も行っているとのことですが、そういった“緩い運用”も、2人の朝活が優れている点のひとつです。

〈欠乏の心理についてひとつ言えるのは、トンネリングに備え、ほったらかしを防ぐ必要がある、ということだ。それはつまり、トンネリングを起こしている一瞬にまちがった選択をしにくいようにうまく舵取りをして、あまり心がけなくても良い行いができるように手はずをととのえ、ただしときどき現状を見直すようにすることである。〉
(本書p.272)

 もしもジャグリング男子と付き合うことになったら(あるいは付き合っているとしたら)、彼の「処理能力」の一部を解放する方法を二人で考えてみてはどうでしょうか。

 そうした浮いた分の「処理能力」を、自分(彼女・妻・家族)に向くように舵取りをする。本書にはそれを考えるための事例や方法がたくさん書かれています。個人的にも、目からウロコが落ち続けた読書体験でした。腹の底からオススメいたします。

文/森田専務(桃山商事)