多忙な“ジャグリング男子“とは?

■「ほったらかし」の原因となるトンネリング

 欠乏を感じると、人はそのことだけに集中します。仕事で締切を設定することは、時間的な欠乏状態を意図的につくっていることであり、これは欠乏のポジティブな側面です。

 しかし1つのことに集中することは、他のことをほったらかすことにほかなりません。「本やテレビ番組に夢中になりすぎて、隣にすわっている友人からの質問に気づかなかった経験」は誰にでもあるでしょう。いわゆる視野狭窄の状態です。

 欠乏によって目前の切迫した問題への対処だけに心がとらわれ、視野狭窄に陥ることを、本書は「トンネリング」と呼んでいます。トンネルの内側のものは鮮明に見える一方で、トンネルに入らない周辺のものは何も見えなくなります。

■多忙と欠乏の共犯関係

 このようにトンネリングを起こしている人は、締切が目前に迫った「重要かつ緊急なこと」だけに集中し、放置しても平気な「重要だが緊急でないこと」を先延ばしにします

 1ページ目で例として挙げた「いつも忙しい男性」にとっての彼女と会う約束やメールの返信、家事、子育て、旅行の計画もこれに当たります。また、仕事中でも、「重要だが緊急でない案件」は後回しにします。「いますぐやらなくてはならないことがほかにある」からです。

 これはローンの借り換えに似ています。昨日から今日に延ばしたことのせいで、今日やろうとしたことが先送りになります。しかし、次にやろうとしたときに前より時間がたくさんあるわけではありません。そこで時間という負債を次々に借り換えていきますが、ローンの利子と同じように、後回しにした仕事を片付けるには、本来かかる時間よりも少しだけ余分な時間がかかります。

 こうして、多忙と欠乏は「手に手を取って」進んでいくのです。

■ジャグリングとは何か

 トンネリングが続くと、やがて著者が「ジャグリング」と呼ぶ状態に突入します。それは「緊急の課題を曲芸並に次から次へとやりくりすること」です。ジャグリングに陥った状況を、著者は次のように記述しています。

〈(空中にはたくさんのボールが投げられているが)落ちようとしているボールに集中するせいで、どうしても全体像を見ることはできない。遅れを取り戻そうと躍起になるのをやめたいのはやまやまだが、やるべきことがありすぎて、どうすればいいかわからない。いまはあのプロジェクトの期限を守らなくてはならない。長期的な計画は明らかにトンネルの外だ。〉(本書p.172)

 このように、欠乏は処理能力に負荷をかけて人の心を占拠し、彼を「今」に縛りつけます。明日も時間が乏しいかも知れませんが、それは別の問題なので放っておきます。しかし気付いたときにはそれが「今」の問題としていきなり目前に迫り、焦ってその場しのぎの対応をすることになる……「なぜ、あらかじめ決まっている出来事を、まるで突然の出来事であるかのように受け止めているのだろう?」

 これが、多くの「いつも時間がない」男性に起こっていることです。

 言うなれば彼らは“ジャグリング男子”なのです(読者のみなさんの中には、“ジャグリング女子”もいらっしゃるかもしれません)。次の頁では、そんなジャグリング男子と付き合うなかで出てくる問題点について考えていきます。