自分なりの恋愛観をつかむために

■幸福の尺度を多様化させていく

 ひとり出版社とは、そういった社会状況の中で生まれつつある小さなムーブメントです。出版不況などもはや“前提”のものとして、「どうせ正解などないのだから」とある意味で開き直りつつ、一方でリアリティの届く範囲、責任の取れる範囲を冷静に見定め、新たな本作りのスタイルを模索しています。

 恋愛も、このような心構えでのぞんだ方が時代にマッチするのではないかと思うわけです。常識や規範といったものからいったん離れ、自分は何を大切にし、どんな人と一緒にいたいのか。自分は何が欲しくて、何が不要なのか。幸せに暮らしていくためには、恋愛にかけられる時間や労力はどのくらいが適切なのか。あるいは、自分は本当に恋愛を必要としているのか──。

 ……などなど、なかなか面倒なことではありますが、「どう生きたいのか」と一度原点に立ち返った上で熟考し、自主的に選択・決断していく。そして、ひとり出版社では「納得度」「楽しさ」「手応え」「広がり」といったものが売上に並ぶ評価軸となっていたように、恋愛でも自分なりに幸福の尺度を多様化させていくことが大事なのだと思います。

■インタビューという具体的アクション

 そのためには、どうすればいいか。もちろん、安易に答えなど出せるわけもありません。ただ、そのひとつの手がかりになるのが、まさに本書で著者の西山雅子さんが行った「訪ね歩く」という方法ではないかと思います。

〈私が今後、ひとり出版社を立ち上げるかどうか、今はまだわからない。ただ、作家が魂を込めた作品を預かるつなぎ手として、その本にとってベストとなったとき、その道を選びとれる編集者になりたいと思った。そうでなければ、この先、全力で前に進めない気がした。そこで、先人たちに知恵と力をもらいに行くことにした。それは私にとって、これからの生き方、働き方、本のあり方をあらためて見つめ直すことにもつながった〉

 西山さんは「おわりに」でこのように語っていますが、他者の話に耳を傾けるという行為は、“恋バナ収集ユニット”を自称する桃山商事としても大いにプッシュしたい方法です。なぜなら、我々は鏡で自分の姿を確認するように、他者の話を聞く中で自分という人間を発見していく生き物だと思うからです。それは自分に変化を与える行為であり、西山さんが上記のような決意をしたのも、そのひとつの結果だと思います。

 自分なりの恋愛観を構築していくのは簡単なことではありませんが、そのヒントは他者の中にあります。友達でも親でも上司でも、ぜひ気になる生き方をしている人の話を聞きに行ってみてください。インタビューというと不慣れな人には難しく感じるかもしれませんが、「タバブックス」宮川さんのように“やってみたら案外できる”かもしれません。

 ちなみに、著者が丹念な対話を繰り広げる本書には、問いの立て方や質問の投げ方、話の受け取り方や展開のさせ方など、“インタビュー術”として参考になる部分も多々あります。そんな視点からも、ぜひ一読をオススメしたい1冊です。