「ひとり出版社」のこころざしに学ぶ恋愛のありかた

■“小商い”に宿るこころざし

 さて、ここまで『“ひとり出版社”という働きかた』について、2人の具体例を紹介しながら、その概要を駆け足で眺めてきました。

 一般的に、1冊の本を出版する際のコストは大体200〜300万円と言われています。そして、作った本は「取次」という流通業者を通じ、全国の書店へ配本されます。コストの割に確実な売れ行きを見込むのがなかなか難しい出版事業はしばしば“ギャンブル”にたとえられ、“出版不況”が叫ばれて久しい現代にあっては、お世辞にも勢いのあるジャンルとは言えないでしょう。

 そんな中で、小さな働き方を選択したひとり出版社の人々。もちろん「ベストセラーを生み出して大きな利益を手にしたい」という夢や野望がないわけではないと思いますが、そこでは、『小商いのすすめ』(ミシマ社)の著者・平川克美さんの言葉を借りれば「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温を感じる圏域でビジネスをしていく」ことが優先されているように感じます。

 不況だからと言って安易に安定志向・マーケティング志向に流れるのではなく(出版業界にはヒット作の類似本を出して手堅く利益を上げるという風習も確かにあります)、また業界の慣習だからといって作った書籍の配本を取次任せにせず、作りたい本を丁寧に作り、読みたいと思ってくれる人にきちんと届ける。そんなひとり出版社のこころざしには、「恋愛」という視点から見ても学ぶところが多々あるように感じます。

■恋愛と出版の共通点とは

 少々強引な結びつけに感じるかもしれませんが、現代社会で恋愛と出版の置かれている状況にはいくつも共通点があります

  ずいぶん前から現代人の読書離れが叫ばれていますが、その要因として、スマホやゲームの普及によって個人の時間を奪い合う“競合相手”が増えたことや、「じっくり1冊の本を読む」というスタイルが現代人の細切れな時間感覚にフィットしなくなっている、などがしばしば指摘されています。決して「いい本が少なくなったから」などという単純な理由ではありません。

 恋愛も状況は似ていて、つい「当人同士の問題」というスケールで考えがちですが、実は社会状況や時代背景の影響も多分に受けています。例えばライフスタイルが多様化したことで「情熱を傾けるもの」や「暇つぶしのツール」が増え、恋愛の重要性は相対的に低下しているだろうし、スマホやSNSが発達し、コミュニケーションの速度やテンポが上がった結果、相手とじっくり向き合う恋愛は少し面倒で億劫に感じられるものになりつつあります。

 その最たる影響のひとつが、恋愛や結婚における「コスパ感覚」でしょう。どうせ時間やコストをかけるなら、面倒でリターンが不確実な恋愛よりも、趣味や勉強にまわした方が“利回り”がいい。そんな風に考える人が増えているのも、こういった“恋愛不況”とも言うべき状況と無縁ではありません。

 クラシカルなものゆえ、もてはやされた過去のイメージが残っている反面、社会状況や時代背景と齟齬が生じつつあり、変革や更新を迫られている──。こういった部分が、恋愛と出版の共通点だと感じるわけです。