渡部さんは普通の人の感覚を忘れない

 でも、実はこの2人には強い結びつきがあります。彼らはもともと高校の同級生でした。学生時代、渡部さんは明るい人気者で、クラスのリーダー的な存在。一方の児嶋さんはおとなしくて目立たない気の弱い少年でした。高校卒業後、児嶋さんが渡部さんを誘って、コンビを組んでお笑いを始めました。渡部さんは自分に声をかけくれたことを意気に感じて引き受けたのですが、実は児嶋さんはそれまでに何人かの友人を誘って断られていて、渡部さんは5人目でした。

 渡部さんとしては、最初は児嶋さんにすべて任せようとしていたのですが、徐々にそれではまずいということに気付き始めます。児嶋さんは芸人としても人間としても頼りにならない存在だったのです。それから渡部さんは自分が主導権を握り、ネタ作りなどの仕事を進めていくようになります。いわば、児嶋さんに足りないところがあったからこそ、渡部さんがそれを埋めるために奮起し始めたわけです。そこからあの緻密な設定のコントが生まれていきました。

 『爆笑オンエアバトル』のチャンピオン大会で優勝を果たしたりと、アンジャッシュは確実に実績を積み上げていきました。そして、その頃から渡部さんはテレビタレントとしても頭角を現していきます。自分にはタレントとしての明確な個性がないということを自覚していた彼は、恋愛心理学、高校野球、グルメなど世の中の人にも需要がありそうな自分の趣味を全面的にアピールして、そこから仕事のきっかけをつかみました。

 渡部さんがこういった趣味に関する仕事を増やしているのは、一般の人に分かりやすく解説をする能力に秀でているからだと思います。そして、それができるのは、渡部さんが庶民感覚を忘れていないからでしょう。芸人の中には、世の中の常識に逆らい、タブーを破壊することで笑いを生み出していくタイプの人もいますが、渡部さんはどこまでも常識人の視点を忘れていません。だからこそ、普通の人のニーズをくみ取って、彼らが求めていることを提供することができるのです。