また、この業界に特有の事情として「芸人は家庭を持ってはいけない」という定説が長らく信じられてきた、ということがあります。男性芸人は、時には自分の女性関係のことを話題に出したり、キツい冗談を言ったりして、嫌われてもいいという覚悟で笑いを取りにいかなくてはいけません。幸せな家庭を持っているというイメージがあると、どうしても本人が全力を出せなかったりするし、受け手もイメージに縛られて素直に笑えなくなったりするものだ、と思われていたのです。

幸せな家庭を持つと仕事がうまくいかない?

 かつて一時代を築いたカリスマ芸人の萩本欽一さんも「幸せな家庭を持つと仕事がうまくいかない」という持論を持っていました。また、ビートたけしさんやタモリさんは人気者になったときにはすでに結婚していましたが、不思議と2人とも家庭の臭いがしません。幸せな家庭を築いていることを積極的に話す男性芸人というのは、今でこそ「パパ芸人」「イクメン芸人」などと呼ばれてもてはやされたりもしますが、かつてはほとんど例がありませんでした。明石家さんまさんも、女優の大竹しのぶさんと結婚する際には「これがきっかけで芸人として落ち目になるかもしれない」という悲壮な覚悟を持って結婚に踏み切ったと言われています。

 ただ、今では事情が変わっています。世の中での結婚観や男女観が少しずつ移り変わっていく中で、結婚する男性芸人もだんだん増えてきました。また、芸人が妻や子供のことを明るく話すのも世間に受け入れられるようになってきました。最近では、鋭いことをズバッと言うキャラでありながら、既婚者で愛妻家ということが知られているためにあまり好感度が下がらない、小籔千豊さんのような新しいタイプの既婚芸人も出てきています。

 男性芸人が結婚してもいい時代になった今、数多く存在する独身貴族芸人も、そのうち続々と独身を卒業していくことになるでしょう。次にその口火を切るのは誰でしょうか?