「人間失格」に衝撃を受けた理由

ブレークしはじめた頃の又吉さん
ブレークしはじめた頃の又吉さん

 そこには、自分と同じように周囲の目を気にしながら鬱々と生きる人間の姿がありありと描かれていたからです。

 しかも、太宰の小説はシリアスな描写が面白いだけでなく、ユーモラスな要素もあります。

 「そんなこと、普通の人は気にしてないよ」というようなことまでどうしても気にしてしまう自分の繊細さが、いったん視点を切り替えると他人にとっては滑稽で笑えるものにもなり得る、ということを又吉さんは太宰の作品から学んだのではないでしょうか。

 又吉さんの繊細さは作家としての創作活動にも生かされています。

 彼は作り手として、受け手が自分の作品をどう受け止めたかということにも人一倍敏感です。

 250万部を超える驚異的なベストセラーとなった「火花」で芥川賞を受賞した後に発表された書籍やインタビューの中では、彼が「火花」に対して寄せられた膨大な量の感想や批評を一つ一つ受け止めた上で、次の作品を生み出すための糧としていることが繰り返し語られています。