「やりたいこと」とは?

 会社員のTさん(30代、女性)は、運動を習慣にしたいと思い、パーソナルトレーナーをつけることにしました。日程を予約するときはやる気満々なのに、トレーニングの予定が近づくと毎回どうしても気が乗らずに、いろいろな理由をつけて直前に予約をキャンセルすることを繰り返していました。

 「どうして運動をしたいのにできないのかな?」というので、悩みをよくよく聞いてみたところ、実はTさんは「運動を習慣にしたい」わけではなくて「健康維持を習慣にしたい」ことが分かりました。もっと言うと、運動が嫌いなのに、健康維持のためには運動が必要だから、運動がしたい、と自分に言い聞かせていたから辛かったのです。

 健康維持を習慣にしたいのであれば、そのための手段として運動をすることはもちろん有効ではありますが、運動の他にも健康維持に必要な要素はたくさんあります。嫌いなものを無理矢理好きだと思い込んでも続くわけがありません。この場合は、他の健康維持に役立つ習慣で、自分がより興味を持って続けられるものから始めれば良かったわけです。

 笑い話のようなできごとですが、実は同じようなことをしてしまっている人が意外に多いのです。私はこのような「やりたいこと」を「エセやりたいこと」と名付けています。「エセやりたいこと」に、本当にやりたいことをかき消されないようにしましょう。

「やりたい」「やりたくない」の境目は、好きか嫌いか

 やりたいのか、やりたくないのかをなかなか決められないのは、「自分基準の重要度(やりたい!)」と、「自分以外の誰か基準の重要度(やったほうがいい/やらないとまずい/やらないと人でなしだと思われてしまう/このくらいしか私はできないし、等)」の区別が曖昧なときが多いです。

 ですから、もやもやが続くときは、もやもやの理由をひとつひとつ書き出し、「それは自分基準か? 相手基準か?」を判断していくと良いでしょう。自分基準か、相手基準か、という線引きが難しいようであれば、まずは「好きか嫌いか」というざっくりした基準でもかまいません。好きの比率が多ければ、思い切ってGO。嫌いの比率が多ければ、今回はやめておけば良いだけの話です。

 これは何も、「エセやりたいこと」は無視してOK !一切やらなくてOK! という意味ではありません。例えば、「これはエセやりたいことだけど、自分以外にやる人がいないから今はやるしかないな」などと割り切れていればそれでOKです。どうしてもやらなきゃいけないことはあるし、ある程度我慢しなければいけない場合もありますものね。

 理想の状態を得るには、理想を明確化しておかないといけません。でも今は情報が多すぎる時代。いろんな人が、いろんな立場でものを言うので、自分の心の底からの理想か、他の人に押しつけられた理想かを判断する軸も鈍りがちになってしまいます。

 だから、まずは「好き・嫌い」という感情でもいいので自分のスタンスを明確化していきましょう。思いっきり偏見でもいいのです。嫌いでもやらなければいけないことももちろんあるでしょう。でも、頭できちんと「嫌い」と分かっていれば、割り切って効率化することもできます。アウトソースしたり、他の手段でやることを考えたりもできるようになるのですから。まずはそこから始めてみましょう。

イラスト/フェアリーズ (PIXTA)