女性活躍施策が及ぼす全社的な好影響

――様々な取り組みをしてきて、社員の反応はいかがですか?

山内:「会社は本気なんですね」と言われます。会社としての本気度が伝わっているのだと思いますね。私だけではなく役員からも、「会社は女性の活躍推進を必ずやっていく」というメッセージを強く伝えてもらっていますので、部長や課長も職場で部下に発破をかけているのでしょう。社員に積極性が出てきましたし、社全体で機運が高まっていると感じます。

 「管理職になりたいですか?」と女性社員に聞くと、2014年末はネガティブな人が60%以上で、ポジティブな人は約20%しかいなかった。それが1年間の取り組みで、ネガティブは約40%に下がり、ポジティブは約25%に増えました。

――それはやはり、1年間で一気呵成に取り組んできたスピード感も、良かったのでしょうか。

山内:そうですね。ダイバーシティ推進はある意味「組織風土刷新」に近いと思うんです。組織風土は、ゆっくりやっていてはなかなか変わらない。最初にかなりパワーを使ってスピード感をもって取り組んで、ようやく少しずつ変わるんだと思いますね。

――では2年目となる今年はどんな取り組みを予定していますか。

山内:専任組織の「ダイバーシティ推進室」を、これまで人事部内に置いていたのですが、今年1月から社長直轄の「ダイバーシティ推進部」に独立させました。推進が進むにつれて、人事制度や昇格など、人事部へのけん制機能を働かせる必要性が高まってきたからです。

 また、今年前半では男性社員も含め、新入社員から管理職含めた全階層約2500人に研修を行う予定です。底上げをしていこうと。昨年、女性向けの研修を聴講した男性社員から、「女性活躍推進をどうしてやらなければいけないのかが、よくわかった」という意見が多くありました。やはり男性が理解してくれないと、本当の推進は難しいですから。

――さらに機運を盛り上げるために、男女ともに意識共有をしていくのですね。

山内:もう一つ重視しているのが、管理職と女性社員のコミュニケーションです。実は昨年、男性上司が女性社員となかなかうまくコミュニケーションをとれないというので、研修を行い、それぞれの職場で会話を増やす努力をしてきたんですね。すると結果的に、女性だけではなく男性部下とのコミュニケーションもよくなった。そうした積み重ねで、私はこの1年間でずいぶん社内に元気が出てきて、活力ある組織風土が醸成しはじめたと思っています。社外の取引先からも「社員が明るくなりましたね」「活発になりましたね」という声をよく聞きます。

――女性がターゲットだった施策が、会社全体にいいインパクトを与えている。

山内:そのとおりです。こういうことがダイバーシティ推進の一番の目的だと思うんですね。女性に活躍してもらうためには今までのことをいろいろと変えないとできないので、組織にイノベーションが起こります。例えば、残業時間削減の取り組みでは、早く帰宅できるようになった男性がその時間を勉強にあてたり、朝スッキリして出社できるので仕事のパフォーマンスが上がったりなど、男性にもいい影響を与えています。

研修にも参加し、グループワークなどを熱心に見て回る
研修にも参加し、グループワークなどを熱心に見て回る

――ビジネス上のメリットは実感されていますか。

山内:ダイバーシティの効果かどうかはわかりませんが、昨年は非常にいい業績でした。社員が元気になっているので、社内外のいろんなところに、いい影響、好循環を与えられているのではないかと思います。

 私はこれまでの経験から、女性のポテンシャルは男性同様で、個人差はあっても男女の差はまったくないと思っています。意欲のある女性が、長く働けるだけではなく、キャリアアップも成長のスピードアップも意識して活躍できるように、後押ししていきたいですね。

インタビュアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、取材・文/吉楽美奈子
日経ビジネスオンライン2016年4月25日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。


女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことをわかりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している「女性活躍の教科書」(麓幸子・日経ヒット総合研究所編/日経BP社)