育児や介護経験はブランクではなく「付加価値」である

――育休復帰後2カ月で、ですか。育休から復帰した女性社員には、育児が大変だろうから休業前と同じ仕事を任せないという、男性上司の“配慮”や“優しさの勘違い”で、より簡単な仕事を与えられてキャリアが停滞してしまう女性も多い中で、まったく逆ですね。

大櫛:両立に自信が持てずにためらう私に、上司が「皆で支えるから大丈夫」と背中を押してくれましたね。今も周りに支えてもらいながらやっています。時短勤務制度は使っていませんが、なるべく19時までには自宅に帰り、必要に応じて自宅で仕事をします。時間になると、「そろそろ帰らなくていけないのでは?」と部下たちがフォローしてくれたり、夜の会議は入れないなど協力してくれたりするため、本当に助かっています。

――日本の企業では、制度はあっても周りに頼れない雰囲気があったり、時間の制約があることで、ワーキングマザー社員と他の女子社員の間に軋轢が生じたりするケースも少なくありませんが、そうではないということですか。

大櫛:育児中の女性に対し、周りが理解し、自然と協力しながら支え合うという文化が浸透しているバクスターだからこそ、子どもを育てながらもキャリアアップの選択ができると感じています。その結果、当社では、執行役員の女性が4割、その50%は小学生以下の子どもを子育て中です。とはいえ、皆が忙しく働く中で帰るのは申し訳ないという気持ちも常にありますし、いつも葛藤していますね。でもそれを気にし始めたら、両立できなくなってしまう。周りに支えられていることに日々感謝をしながら、自分にできる恩返しをしていくしかありません。

――なかなか成果を出せず申し訳ないという気持ちから、昇進のオファーに二の足を踏むワーキングマザーもいます。ワーキングマザーが心の壁を乗り越えるにはどうすればいいと思われますか。

時短制度は使わず、19時までに自宅に帰り仕事と両立している
時短制度は使わず、19時までに自宅に帰り仕事と両立している

大櫛:子どもがいると突発的な出来事が起こり、思うようにいかない場面の連続です。大変なのは事実ですが、一方で、子どもがいるから限られた時間で成果を出そうと心がけるようにしています。子どもと仕事が相乗効果を生んで、もっと頑張れるし、充実する。企業がワークライフバランスを選択できる環境を整える、その中で個人的には、仕事とライフが「インテグレーション」するという考え方で、自分のキャリアをとらえたいと思っています。本当に難しいのですが(笑)。

――ワークライフバランスというとワークとライフが相反するようなイメージをもたれる向きもあるようですが、大櫛さんが目指すのは、その2つを分離するのではなく、統合させるということですね。相乗効果を生んで、双方の充実をもたらすのが「ワークライフインテグレーション」だと。

大櫛:このように選択できるのも、職場の環境整備の結果だと思います。当社では、在宅勤務が週5日まで認められており、成果さえ出せばどこで仕事をしてもかまわないというフレキシブルな働き方が可能です。育児休業も3年認められており、その間はいつ戻ってきても構いません。また、当社では、育児経験や介護といったことをキャリアのブランクととらえず、「付加価値」と考えています。別の世界を見てきた貴重な経験は、ビジネスにも生きると思うからです。しかし、まだまだ営業部隊であるMRなどでは、フレキシブルな働き方が難しいという側面もあります。女性・男性を問わず、すべての社員が、子育てや介護など、人生で通るステージとそこで発生するニーズと向き合いながら、自分の目指すキャリアを構築できる環境整備に努めていきたいですね。

インタビューアー・麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、取材&文・西尾英子
日経ビジネスオンライン2015年12月28日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。