育休がハンディにならないよう評価の運用を見直し

――では、階層別の女性活躍推進はどうでしょうか。女性社員の意識は、男性以上に、年齢や世代、ライフステージによってさまざまですが。

紀伊:マーケティングの発想で女性社員を階層別に着目し、適正なキャリア開発支援を行えるようにしました。具体的には、若手社員にあたる「一般社員層」、管理職手前の「中堅社員層」、「管理者層」の3つの層について、それぞれアプローチを変えています。例えば一般社員層であれば長く働き続けるイメージを持ってもらえるよう、キャリアプランを考える機会を与えています。中堅社員層は、ロールモデルとして活動する機会を与え、管理職を目指す意識向上を、管理者層は役員交流会への出席や組織長によるメンタリングなどで視座を高める育成を行っています。

――社内制度の運用の見直しというのは?

紀伊:NTTグループ全体で育児支援制度をはじめとする人事制度はかなり充実しています。ですから、できる限り運用を見直して、柔軟な働き方をバックアップしたいと考えました。例えば、勤務時間を朝にずらす「スライドワーク」を可能にしたことで育児中の女性社員も早朝に出社し、夕方早めに帰ることができ、短時間勤務を選択しなくても、フルタイムで育児と仕事を両立できるようにしました。また、朝型勤務を推奨し、時間外労働を早朝にシフトすることで定時に退社する「プライオリティワーク」も実施しています。これは、女性社員に限らず、全社員自らが「働き方の変革」を実践するものでダイバーシティ・マネジメントの一つといえます。

 ちなみに、女性の活躍支援のため、評価制度の運用も見直しました。具体的には育児休職等取得者のリカバリ昇格の運用です。例えば、評価対象期間において、育児休職等で勤務実績がない場合、他の社員と比べて昇格タイミングに差が生じやすくなりますが、復職後の評価結果および所属組織からの推薦をもってリカバリ昇格の候補とする運用です。そうすることで、たとえ育児休職を取っても、本人のやる気と能力次第で、昇格候補に上げることができます。

――昇格時の条件として、高い評価を連続して取る、または在籍年数は何年間などと決められている場合、育児休職はどうしてもハンディになります。

 今回はそれを取り払われたということですね。

紀伊:そうです。現行制度内で機動的に運用を見直しました。キャリアアップを目指す女性には、「育児休職はハンディにならない。だから安心して休んでください」という思いもあります。

 こうした運用面の工夫の背景には、女性管理職比率を上げていくためという目標もあります。当社は18年度までに女性管理職比率5%達成を目指していますが、現在は約3%。目標を達成するためにはかなりストレッチをかけてやらなくてはなりません。そのため、制度の運用面の見直しでできることはすべてやろうと考えています。

象徴的なポストに女性を積極登用

――ほかに、女性の管理職登用のためにどのような施策をしていますか?

紀伊:「Symbolic One(象徴的配置)」と「Plus One(比率増配置)」が挙げられます。前者は組織の部長や室長、支店長など、象徴的なポストに女性を積極的に登用していこうというもの。残念ながら35~45歳くらいの層の女性が少ないので、象徴的なポストの候補者が少ないのですが、チャンスがあればどんどん配置していきたいと思います。後者は、各組織において、女性社員比率およびリーダー層ポストの女性比率を増やそうとするものです。女性社員比率の低い組織に対しては、積極的な配置を促進しつつ、一定数配置できている組織に対しては、更なる配置促進を目指す取組みです。どちらも重点取組事項として各組織における人事担当ラインに共有し、積極的な取組みを促しています。また、これは女性に限ったことではないのですが、異業種の企業にトレーニーとして武者修行しにいく研修があり、対象者枠を10人から20人に拡大し、女性対象者の割合も上げました。このように一皮むける刺激的な経験をすることは、自信につながり、その後役職登用への可能性が高まると思います。これからも、Symbolic Oneや異業種研修などを通し、各階層で修羅場経験をしてもらえる機会を増やすことが必要です。

――では、最後にダイバーシティのビジネス的な効果について何か実感されていることはありますか。

紀伊:もともと、女性のアイデアや活躍により新たなサービスが多数生まれていますが、ここ最近は若手の女性社員が自発的に行動し、活躍する場面が増えています。例えば「アグリガール」。これは有志女性社員による農業ICT推進プロジェクトチームで、水田センサや「牛温恵」などとタブレットを組み合わせ、勘と経験だけに頼らない生産性の高い農業を実現するものです。全国各地で積極的な活動を実施しており、実績も上げています。ほかにも、スマホと連携して会話ができる次世代コミュニケーショントイ「OHaNAS(オハナス)」をタカラトミーと共同開発したのですが、その開発担当も女性社員です。

有志女性社員による農業ICT推進プロジェクトチーム「アグリガール」
有志女性社員による農業ICT推進プロジェクトチーム「アグリガール」
次世代コミュニケーショントイ「OHaNAS(オハナス)」
次世代コミュニケーショントイ「OHaNAS(オハナス)」

 当社は15年度から新しい価値を生み出す「+d(プラスディー)」など、スマートライフ領域に注力しており、お客様目線でのサービス開発部門には戦略的に女性を登用しています。実際、新サービスを創造するスマートライフビジネス本部の女性比率は26%と、全社の女性比率17%と比較しても高い数値になっています。多様な人材の活躍により、新たな価値創造につながっていることを実感しています。

インタビューアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、文・構成/岩井愛佳
日経ビジネスオンライン2015年12月15日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。