訪問しない、非対人での営業スタイルを開拓

――“訪問をしない営業スタイル”とは、どういった戦略なのでしょうか。

井上:当社には約10万件のお客様のデータベースがあります。それを活用し、WEBや電話でのインサイドセールスで、成約に繋がる見込顧客や商談を発掘する方法です。対人営業のみだとリソースに限りが出てしまうので、ここ1年ほど、非対人での営業スタイルを試行しています。他にも、お客様から挙がってきた課題を整理して関連部署に展開するなど、訪問の営業職と協調する形で互いのモチベーションを持続しながら活動を行うためにベストな方法を探っています。

 新たな展開としては、私たちが手掛けるさまざまなビックデータ分析を営業の現場でも生かそうと考え、進めています。お客様の購買履歴を分析し、次の展開の戦略を練るなどあらゆることを結び付けながら、生産性の高い営業の在り方を構築している最中です。

――時間の制約がある女性社員をいかに活用するかを考え、非対人セールスをはじめとした新たな営業スタイルを構築されていると。

井上:実際に、WEBのインサイドセールスを行うチームでは、時短勤務者に入ってもらって顧客分析したり、非対人スタイルでコンタクトをとってもらっています。こういった新しい試みは、やってみないとどうなるか分からないですから、どんどんトライして結果が良かったものは残し、ダメなら変えていくといった臨機応変さが大事だと思っています。同時に、女性が働きやすい環境整備のためには制度上の課題にも取り組まないといけません。有効な方法はどんどん取り入れて進めていくべきでしょうね。

――営業スタイルを開発し、働き方自体を変革していくことを重視しているということなんですね。

井上:インサイドセールスなどの領域は、時間に制約がある人でも活躍できると感じています。また、営業の女性を取り巻く環境も変わりつつあります。昔は、産休を取ると営業先に「1年も来られないなら仕事にならないよ」と言われてしまうこともあったのですが、今は違う。「よく戻ってきたね」と笑顔で迎えてもらえるケースがほとんどです。逆に、そうでないお客様とは「付き合わなくていい」と、女性たちには伝えています。

――組織トップがそういう姿勢で後押ししてくれることは、女性社員にとって心強い。他に営業分野で女性活躍にどんな施策が奏功したと思われますか?

部長代理の小野寺知子氏。営業職における課題を洗い出し、他部門とも連携し現状プロセスの見直しに着手している
部長代理の小野寺知子氏。営業職における課題を洗い出し、他部門とも連携し現状プロセスの見直しに着手している

井上:2013年の12月に、女性の働き方の見直しや意識啓発を実施するため、ワーキンググループ「We」プロジェクトを起ち上げました。名前の由来は、“Woman Energy”と、ひとりではなく“みんなで”という意味を込めて「We」からなったのです。女性社員にとって本当に働きやすい環境づくりを考え、他社の制度を調査したり、部署を越えた情報交換の場を作ったりして、同じ悩みを持つ社員同士の交流を行っています。当初は、女性だけで進めていましたが、現在は男性も入ってもらい、活発な議論を重ねています。まだ現状分析の段階ですが、営業推進部のトップである部長をプロジェクトリーダーに置き、活動を推進しています。今年度は、新しいメンバーである営業統括本部産業営業1部部長代理の小野寺知子も加わり、営業プロセスの見直しに着手しています。

 また、当社には日立グループ国内初の女性役員である富永由加里がいまして、彼女の存在がロールモデルとなり、女性たちの大きな励みになっているようです。今、女性の部長層あたりの人員が薄いので、富永さんの後進がどんどん出てくればいいなと思いますし、やる気と能力のある女性はどんどん押し上げていきたいですね。

――女性活躍を進めて実感しているビジネス上の効果はどんなものがありますか。

井上:業績の伸びへの貢献という分かりやすいところだけでなく、実は“男性社員の学び”という隠れた効用も大いにあると思っています。私が若かった頃は、男はとにかく外で仕事、残業や休日出勤は当たり前で、アフター5は仕事の付き合い、家庭のことは妻に任せっきりというケースが多かったのですが、これからは、仕事も家庭も男女が協力していく時代です。いまだに男性社員のなかには、従来の働き方をひきずり、「島耕作」を気取っているのがたくさんいます(笑)。それは一見華々しいけれど、実は働き方として生産性が悪い。「生産性」は、今後働く指標としてもっとも重要なポイントです。時間に制限のある女性たちが、工夫しながら最大限の成果を上げようとする姿は、男性にとって、生産性向上の大きな学びになると確信しています。

インタビューアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、文・構成/西尾英子
日経ビジネスオンライン2015年11月27日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。