行動計画の必須項目は、(1)目標(数値目標)、(2)取組内容、(3)実施時期、(4)計画期間である。策定した行動計画は、行政機関(各労働局)に届け、さらにホームページなどで外部に公表することが義務づけられる。行動計画のほかに、女性の活躍に関する情報も公表する(省令で定める事項のうち事業主が選択して公表)。民間企業だけでなく、国や地方公共団体(都道府県、市町村)にも同じように義務を課す。

 また、子育て支援の取り組みを認定する「くるみん」制度のような、女性活躍企業の認定制度の導入や、事業入札で受注機会を増やす優遇策も盛り込まれている。つまり、この新法で、各企業の女性活躍の見える化を進めたうえで、女性活躍企業を認定したり公共調達で優遇したりすることで、政府が女性活躍企業を支援することを明らかにしているのである。

罰則規定なき新法の実効性は?

 この法律には罰則規定がないため、実効性を危ぶむ声も一方ではある。このステークホルダーへの「見える化」という仕組みそのものが、いい動機づけとなると政府は見ている。

 「女性活躍度を見える化することで、進んでいる企業は、女子学生が就職先として選んでもらえるようになる。また投資家が投資先を選ぶときにも優位になる。そういう市場原理そのものが女性活躍推進のインセンティブとなるだろう」(小林課長)。

 シカゴ大学教授の山口一男氏は、この法律に対して、「行動計画策定は数値目標を上げることを対象企業に義務付けているが、実は行動計画策定以上に事後のフォローアップが重要」と指摘する。女性活躍の推進には優良企業の表彰以上に、「劣等企業」に対して、女性活躍が進まない理由について、聞き取りと必要なアドバイスを行うことを制度化・義務化することが必要だという。

 韓国では、2006年より男女の機会の平等に関する積極的措置を従業員500人以上企業に適用し、対象企業に年々1%の割合で女性管理職を増やすことに成功しているが、それは行政指導・監督を含む方法で女性活躍「劣等企業」の底上げをしたからだという。「また、女性は非正規雇用が多い。行動計画策定に関しては一律に考えず正規雇用と非正規雇用と別に策定することが重要だが、この法律では非正規雇用者の問題が抜け落ちる可能性が高い」(山口氏の新法に関する意見は経済産業研究所のホームページに掲載されている)

 新法成立をにらんで企業の女性活躍推進は加速化しているように思う。いや、正確には加速化している企業とそうでない企業が二極化しているというべきか。「日経WOMAN 企業の女性活用度調査2015報告書」によると、「女性活躍のための組織・プロジェクトがある」と回答した企業は、2014年より10.7ポイントも増加して、53.6%と過半数を超えた。マネジメント層への女性活躍のための研修は41.4%の企業が実施、女性管理職候補を対象とした研修も45.5%の企業が実施している。

 女性活躍の取組を進化・加速させる企業の一方で、課題が山積して何から手をつけていいか分からないと悩む企業も多い。この春の、企業の女性活躍の見える化によって、働き手や消費者、そして投資家などにより選ばれる存在になるのか、はたまた逆になってしまうのか。企業はある意味で岐路に立っていると言えるかもしれない。

取材・文/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員