育児時短中の執行役員や女性工場長も誕生

――もともと女性比率が高いカルビーだから女性管理職登用はスムーズだったでしょうか。

高橋:現在4人にいる女性執行役員はそれぞれの分野で実力のある人たちですが、ダイバーシティを推進していなければ、役員まで昇進できたかどうかはわからない、たとえ昇進できたとしてももっと遅かったのかもしれないと思うことがありますね。昇進というのは時の運もありますから。でも、会社は、女性たちの得意分野を認めてしかるべきポジションに登用し、そこで彼女たちが、少なくとも男性と変わらぬ業績を残せているというのが、女性活躍推進の大きな原動力になっていると思います。

――数値目標の数合わせで登用はしていない。実力派の女性たちが育っていたということですね。

高橋:そうだと思います。執行役員のひとりの中日本事業本部本部長の福山知子は育児時短を使っており、現在も夕方には仕事を切り上げています。役員の内示を受けたときに躊躇した彼女に松本は「勤務時間は関係ない、成果を出せる人を登用する」と言ったそうです。性別関係なく優秀な人を登用する――これが役員でも部課長の登用でも一貫しています。2014年には国内ではじめての女性工場長も出ました。そのような実績が男性にも女性にもいい影響を与えています。

執行役員中日本事業本部本部長の福山氏は90年入社。13年現職。2児の母で育児時短を使いながら重責を果たす。
執行役員中日本事業本部本部長の福山氏は90年入社。13年現職。2児の母で育児時短を使いながら重責を果たす。

――どのような影響でしょうか。

高橋:女性役員や女性管理職の活躍を目の当たりにして、女性の意識が変わってきました。子どものいる女性もどんどん活躍している。そういう姿を見て「女性でも活躍していいんだ」と思い始めた女性たちが多い。工場現場でも「女性が工場長になったんだから、私が将来やってもいいんだ」「あの人も管理職になったんだから私もやっていいんだ」とか。「女性だからこの程度でいいや」と思っていたのが、「自分のやりたいことをやるためにはこのポジションにつく必要がある」という思考回路に変わった女性たちが増えてきました。

――女性たちの「○○をしてもいいんだ」というのは、女性からよく聞くフレーズです。つまり、これまで、女性たちは無意識のうちに仕事上では、「○○をしてはいけない」「○○はできない、無理だ」というある枠や制約を自分たちにはめていた。しかし、会社が、本気で女性活躍を推進することで、その抑圧から自分を解放するきっかけになっているのではないかと私は見ています。男性にはどんな効果が出てますか。

高橋:当社は前までは売上や利益を追求するというより、いい商品をつくればそれでいいという少しのんびりした会社でした。それがプロの経営者である松本が就任したことで、営業や工場などの現場に業績を徹底して求めるようになりました。現場の隅々まで売上をいかに伸ばしてコストをいかに削減するかということを重要視するようになったんです。それがいろいろなところに変革を起こしている。それが業績アップにつながっていることに間違いありません。

 これまで工場現場では、育児時短で働く女性社員は余剰人員として扱われるようなところがあったんですが、人件費や製造原価を考えるとそんな余裕はない。上司は育児期の女性もひとりの一要員として活躍してもらうためにはどうしたらいいかと真剣に考えるようになったんですね。戦力として女性を数えるようになった。

 現場の上司が変わると女性たちも変わってくる。新宇都宮工場では時短勤務している女性が主体的に時短勤務者だけでチームを結成し、既存の商品を何種類か詰め合わせるアソートタイプの商品を企画し、売上を伸ばしました。時短勤務だからできないという固定観念を持つことは辞めて、ひとり一人のスキルを見て仕事をアサインしたり、新たな仕事をつくったり、また現場の働き方そのものも変えるような取り組みをするようになりました。その発想の転換が新たな商品を生んだり現場の生産性を高めたりしていると思います。