さて、ここからは実際にどのように価格を上げていくべきかを見ていきましょう。ここでは3つのアプローチを紹介していきます。

1. 「アップセリング」をマスターする

 クライアントに対して追加のサービスや製品を勧めることで顧客単価を増大させる「アップセリング」というマーケティング手法をご存知でしょうか? これを具体的なクライアントワークに当てはめるとウェブサイトのリニューアルに伴ってロゴのリデザインを提案するといったことになります。

 アップセリングを上手くするにはどうすればいいのでしょう? Gamezはいくつかの注意点を挙げています。

 

・不必要な製品・サービスを勧めるのはNG。あくまでも既に提供しているサービス・製品の延長線上にあるものをオススメすること。相手の状況を改善するのに必要なサービス・製品を考え、提案していく姿勢が◯。

 

・クライアントにオプションを与えすぎない。Gamezが行った2万5000件以上の見積もりや企画書を元にした調査では、一つか二つといった限られた選択肢を与えた方がクライアントが決断に踏み切る傾向にあることが分かっている。

 

・最初の打ち合わせでいきなりアップセリングしない。相手が実際に決断する時点ではじめてアップセリングをすること。例えば、提案書の中でサービスや値段を提示する際などにやるべきです。また、いきなりアップセリングをするとクライアントにとってはプレッシャーになります。相手が余裕を持って判断を下せる状況をつくることも重要です。

2. ライバルとの差別化を図る

 クライアントは自分が求めているサービス・製品に対するだいたいのレート感覚を持っています。私たちがまずしなければいけないのは、どういったことがこのクライアントの価格の基準を規定しているかを把握し、そして最安値で仕事を受けるライバル達といっしょくたにされるのを避けることです。Gamezの例を借りると、私たちはスターバックスのコーヒーがマクドナルドと同じ価格だとは思いません。なぜなら、「それぞれのビジネスが全く違う体験を顧客に提供している」からです。

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 顧客にとってユニークな体験づくりをすることで、ライバルの価格設定は比較対象ではなくなる。始めたばかりの頃は、既にある程度定評のあるプレイヤーが用いる言語ややり方を模倣したくなるが、彼らの価格設定に注目すべきだ。自分よりも安い価格で仕事を受けている人と、明らかに違う体験を提供できるよう全力を尽くすべきだ。
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 具体的にはどういった点において差別化を図るべきなのでしょうか。Gamezは、サービス提案の段階での低額な価格設定をしているプレイヤーと高額な価格設定をしているプレイヤーの違いを例にとり、このことを説明しています。

 まずは、見積もりを依頼された時の低額プレイヤーの対応から。

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 1.クライアントがウェブフォームで見積依頼を送信
 2.仕事内容についてメールで簡単なやりとり
 3.簡単な見積書がクライアントに送られる
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 続いては高額プレイヤーの対応。

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 1.クライアントがウェブフォームで見積依頼を送信
 2.クライアントに短いアンケートが送られ、最低価格の合意形成が行われる
 3.仕事の目的と仕事内容を明確にするためメールもしくは電話でのやりとり
 4.しっかりとした提案書が確認のために送られてくる
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 高額プレイヤーのやりとりの方法や、自らのサービスの位置づけの仕方などを細かく見ておきましょう。些細なことにように思えますが、こうしたクライアントのひとつひとつの体験に差をつけることによって、提供しているサービスが明確にワンランク違うことを相手に伝えることができます。

3. 高いレートに説得性を持たせるためには言葉遣いを心がける

 高いレートを正当化するために重要なのが言葉遣いです。Gamezいわく、例えば単に「デザインサービス」を提供するという名目で価格提示をするだけでは、業界最安値のライバル達の価格と比較され、オファーをはねられてしまいます。

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 自分が提供するサービスをクライアントが抱えている問題へのソリューションとして提示し直すことで、価格ではなくあなたが提供できる価値の方にクライアントのフォーカスがシフトします。例えば「リデザインで顧客数アップ」といったフレーズの方が「デザインサービス」よりも説得力があり、高いレートの根拠付けになるのです。
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 クライアントにとって最も説得力を持つ言葉は、「クライアント自身の言葉」であるとGamezは指摘します。つまり、自分のサービスの価値に説得力を持たせたいのであればクライアントの言葉を使って自分の提供するサービスについて語ればいいのです。Gamezはそのためにはクライアントに次の2つの質問をすべきだとしています。

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 1.「このプロジェクトにおいての一番の懸念材料はなんですか?」
 2.「仕事を発注する個人/会社にはどんなことを求めますか?」
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 これらの質問に対してクライアントから次のような答えが返ってくるかもしれません。「信用できる会社を探しているんです。以前一緒に仕事をした会社で大変な目にあったので。先方がいつも締め切り守らず、そのせいでプロジェクトは常に遅れていました」。

 この回答に耳を傾け、使われているキーワードを見積書や提案書に組み込むことで、自身のサービスが顧客にとって価値あるものになり得るのです。


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 仕事の質を上げれば自ずと収入が上がるというのは幻想です。なぜならクライアントワークにおいて価格設定をしているのが自分である限り、自分でフィーを上げていかなければ収入は変動しないからです。自分の仕事の価値を説得力をもってクライアントに伝えていくことは、質の高いサービス・製品を提供することと同じくらい重要です。

 高いフィーをクライアントに提示することは勇気がいることですが、あなたの仕事の価値付けをする上では必要なことでもあります。あなたのサービス・製品が他とどう違うのかをしっかりと見せていけば、クライアントも納得してフィーを支払ってくれるという認識のもと、仕事の見せ方にも十分注力していくことがカギです。

99U「3 Ways to Earn More Money from Client Work」(Ruben Gamez著)をもとに翻訳、再構成

翻訳・構成/相磯展子