アメリカで注目が集まっている“ハピネス研究”を知っていますか? この分野では、「働く人の精神がどのように仕事に影響するか」についての研究が盛んに行われ、それが実践の場でも取り入れられています。これは仕事で感情を出すことをタブーとしがちな日本とはずいぶん違う考え方です。本連載では、翻訳・通訳者の相磯展子が、「ハピネス研究」をはじめとする海外の仕事観を紹介しながら、日本の仕事の常識に疑問をぶつけていきます。違った視点に触れることで、悩みを解決するヒントがきっと見つかるはずです。

 たいていの人はリスクを伴う挑戦に踏み切る際、代替案としてB案を考えます。「起業で失敗したら、前の会社に戻ろう」といった発想は、常識的には理にかなっていると多くの人が考えるでしょう。しかし、最近の研究ではこのB案を考えることが、本来の目的を達成する妨げになっていることが指摘されています。

 米国ウォートン・スクールの教授らが2016年4月に発表した研究では、代替案について考えただけで、モチベーションが下がり、努力しなくなることが分かったそうです。結果的にB案の存在が目標達成の可能性を下げていたのです

[引用][研究グループが行った]ある実験では駅で見知らぬ人に声をかけ、目標達成のためにどれくらい努力しているか、万が一失敗した時のB案があるかなど、目標に関わる事柄を書き出してもらった。この2つ目の質問に「はい」と答えた人は、「いいえ」と答えた人に比べて目標達成のための努力が少なかった。
(Science of Us「The Case Against Having a Backup Plan」)

 私たちはある程度のプレッシャーがなければ本気になれません。後がない人はものすごい力を発揮するものです。この研究結果もまた、その事実を良く表しているのかもしれません。

 次のページでは、その理由についてお話します。