4. いったん考えるのをやめる

 考え過ぎると状況がよく分からなくなることがありますよね? こんなときによく用いられる方法はいったん考えるのをやめること。

 あることを突き詰めていった先にふと無意識が作用し、発想の転換が起こることを私たちは「ひらめき」と呼びますが、「ひらめき」を得るにはいったん問題から距離を置くことが必要不可欠です。多くの科学者や作家が散歩をしながら考え事をすることを好んだのは、向き合っている作品や課題から距離を置くことでひらめきが得られたからでしょう。

[引用]問題について「考えるのをいったんやめる」という考え方は心理学者Ap Dijksterhuis(アプ・ディクステルホイス)の無意識的思考の理論に基づいている。この理論に関連する研究でDijksterhuisは、サッカーに関する専門知識やスキルを持つ人がオランダのサッカーリーグの試合の結果を予測する際、最終的な判断を下す直前の2分間、別のことで意識を逸らした結果、より正確な予測ができたことを明らかにした。「[…] 無意識的思考は現在考えられているよりも多くの状況で役に立つのかもしれない」とDijksterhuisと研究チームは綴っている。

 一つ留意すべきことは、このアドバイスが決して「無意識、直感だけに頼るべき」というものではないということです。あくまでも思考が限界を迎えた先に、直感力が発揮されるのです。判断を下す際はある程度それについて調べたり、考えたりすることが必要です。

[引用]研究によると[無意識的思考]は特になんらかの専門的知識や技能を持っている人が将来に関して正確な予測(「どの表紙のデザインが最も良い結果を生むだろうか」「どの候補者をチームに加えるべきだろうか」など)をしたいときに有益なのだ。

 「考え過ぎて分からなくなってしまった」という飽和状態になったら、いったん息抜きをしてみてください。この息抜きの時間こそ無意識的思考が働く時なのです。

5. 最も正確な判断ができるのは、「複雑な気持ち」のとき

 上記でも触れましたが人間は非常に感情的です。意図しなくても私たちの判断の多くは感情によって左右されています。

[引用]精神状態は私たちの決断に大いに影響します。一般的に私たちは悲しいときは高い集中力を発揮したり、分析的になったりしますが、逆に幸せを感じているときは直感に頼る傾向にあります。では仕事での判断をする際、どんな精神状態が最も理想的なのでしょうか? 答えは「両方」です。

 最も正確な判断ができるのは、実は複雑な感情のときです。学校を卒業する際に喜びと悲しみの両方が込み上げてくる状況がこれに当てはまります。

[引用]2013年にミシガン大学ロス・ビジネススクールの研究者によって発表された非常に興味深い研究では、幸福と悲しみを同時に感じる「曖昧な精神状態」の人の方が将来の予測や一般知識に関する質問への回答がより正確だと分かった。この精神状態は被験者にそういった感情になった時のことを書き出してもらうことによって呼び起こされた。

 重要な判断をするときにはポジティブな感情とネガティブな感情の両方が混じった精神状態になればいいのです。やり方は簡単。この研究の被験者と同じく、喜びと悲しみを同時に感じたときのことを思い出してみましょう。

 そもそも相反する感情が共存している精神状態がなぜ理想的なのでしょうか? それは上述の通り、ポジティブな状態も、ネガテイブな状態も目下の状況を分析する上で死角をつくってしまうからです。

[引用]複雑な精神状態の人の方がいろいろな視点やアイデアを積極的に取り入れ、自分にとって有益な情報に対して敏感になるため判断力が向上するということがさらなる分析によって分かった。つまり、悲しい状態とうれしい状態の両方の利点を得ることができたのだ。

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 この記事であげたさまざまな研究結果が提示してくれているのは人間が直近の記憶、感情、周囲の意見などのさまざまな因子によって簡単に影響を受けてしまうという事実です。しかし、だからといって決断することを恐がる必要はありません。上記のポイントはあくまでも自分にとって好ましい結果を導くためのツールです。私たちが抱えるさまざまなバイアスに対して意識的でいれば十分です。

 最後になんらかの決断をする際に覚えておくべき、最も重要なアドバイスをご紹介しておきます。

・決断しないことも一つの決断である。そして間違った決断をすることよりも決断しない方が失うものが大きい。私たちはなんらかの決断しないことで判断を留保しているような気になりますが、実際は消極的であれ「決断しない」という選択をしているのです。決断をする際は、意識的に積極的にやりましょう。

・「人生の10%は自分が直面する状況によって決定されるが、残りの90%はそれに対してどう反応するかで決まる」(チャールズ・スウィンドル/牧師、作家、教育者)とあるように、決断自体はさほど重要ではありません。すべての因子を考慮した上で決断するということはできません。むしろ自分の適応力を信じ、その時その時の状況に応じて最適な行動をとるということを積み重ねていくことが大事なのではないでしょうか。人間の認知バイアスも少ない情報に基づいて判断を導くための一種のショートカットとも言えます。客観的に見るとそこには誤謬性をはらんでいますが、正しい答えなどない人生に適応するための適切なメカニズムととることもできるのです。

 決断を下す際の重要なポイントが分かったでしょうか? 上記のポイントを押さえれば決断を誤ることを回避できます。と同時に、決断することに慎重になりすぎないことも忘れずに。

99U「Tough Choices: The Science Behind Making The Right Call」(Christian Jarrett Mohr著)をもとに翻訳、再構成

翻訳・構成/相磯展子

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