そもそも目標を立てること自体に問題が……

 もう一つの大きな落とし穴は、目標を立てる行為自体に孕(はら)んでいます。それは目標達成にこだわるあまり、私たちがそこに到達するまでの過程を苦しいものにしてしまうことです。それに加え、目標を宣言した時点で多少の満足感が生まれることを考えると、三日坊主の条件が揃ってしまっていることが分かりますよね?

[引用]自分の目標を他人に宣言することや、目標を立てること自体が達成段階で大きな痛手となることは多くの研究でも分かっている。なぜなら目標を宣言することで、精神的な満足感が得られてしまうからだ。

ネガティブな動機で目標設定していませんか?

 あなたが立てた目標をもう一度見直して見てください。その裏に「◯◯しなければいけないから」、「◯◯な自分がイヤだから」といったマイナスな動機が潜んでいませんか? こういった後ろ向きなモチベーションのあなたでは目標に到達する過程で不満を募らせ、早々と努力をやめてしまうでしょう。

過程を愛さなければ意味がない

 向上心が美徳とされている世の中では、現状それが例えどんなものであれ、満足するのはなかなか難しいものです。しかし一方で、目標達成だけから喜び・満足を得ようとすることは私たちを不幸に陥れます。なぜなら目標達成の瞬間はつかの間であり、道のりの99.9%はそこに到達するまでのプロセスだからです。

 自分の欠点を雑草のように除去することに必死になるよりも、ポジティブな視点でありのままを受ける入れることが必要です。マイナスなモチベーションは行くところまでしか行きません。だからこそ目標よりもプロセスを愛し、楽しむことが重要なのです。

 以前99UにインタビューされたストーリーテラーのJay O’Callahan(ジェイ・オカラハン)も自分のポジティブな側面を見ることのメリットを説いています。一見世間の流れとは逆を行く彼の主張は、私たちが今もっとも欠けているものの提示をしてくれているようにも映ります。

[引用]「私たちの文化には人の欠点を探す習慣があるが、これはとても不思議である。人と何かをする時、私は些細だが、最も重要ですばらしいこと-ものごとの活き活きとしている部分-を言葉にすると多くの場合驚かれる。」O’Callahanはさらに次のように付け加えている。「常に欠点や弱みを発見しようと詮索する目は徐々にものごとの美しさへの感度を失っていく。」

 成長や改善は欠点を正すことでしか成し得ないという考え方は未だに強い効力を発揮し、私たちの生活、仕事への姿勢に影響を及ぼしています。O’Callahanはこの考えに次のような反論をしています。

[引用]何かを発見するためにはリラックスをする必要がある。論理的、批判的になりすぎると、ものごとの本質を見通すことを可能にする無意識の力が発揮されない。[…]時々こう言う人がいる『自分の何がいいかを知りたいんじゃない。どうやったら自分がもっと良くなるかを知りたいんだ』。欠点を指摘する以外は自分を向上させる方法はないと思われている。これはいかにも古い考え方だ! 何かの良さを評価することは単なる礼儀ではない。それは「活きている部分」を指摘することなのである。そうした指摘を受けた人は、それを咀嚼し、取り入れるべきなのである。

 ポジティブなフィードバックは意外にもそう簡単にできるものではありません。なぜならばいつも批判的なエゴが首をもたげるからです。それは何かを評価する時も、評価を受ける時も同じでしょう。評価されても「この人は礼儀上そう言っているのでは?」と疑ったりしていませんか? しかし、O’Callahanが言うように、ものごとの「活きている側面」を捉えることは本当の意味で向上ないし、自分の世界を豊かにすることへと繋がっていくのです。

 今年は新年の抱負はやめ、まずものごと、他人、自分のポジティブな側面に目を向けていくことに徹してみてはいかがでしょうか?

99U「Open Thread: Are New Year’s Resolutions a Waste of Time?」、「Jay O'Callahan: Appreciations」を引用、翻訳

Profile
相磯展子(あいそ・のぶこ)
日英トランスレーター。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営を行うArt Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)副代表。幼少期を米国、英国で過ごし、各国の文化に強い影響を受ける。ネイティブレベルの英語力を活かし、書き手・話者の視点に徹底して寄り添う質の高い翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、ギャラリー、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベント、ワークショップ、シンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンダンスなども手掛ける。

翻訳・構成/相磯展子