恋を知らない登場人物に感情移入

 このように、2016年の恋愛ドラマには、恋を知らない登場人物がかなり多かった。この傾向は、2015年に放送された古沢良太のオリジナル作品『デート ~恋とはどんなものかしら~』などから見られてはいたが、2015年には、この傾向は多くは見られなかったのである。

 この『デート』では、内閣府で働く研究員のヒロインの藪下依子も、高等遊民と称する谷口巧も、二人とも恋愛経験がないが、結婚相談所を通じて出会い、デートを重ねていく。

 女性が高学歴で、男性が若年無業者という設定からして、これまでのラブ・コメディにありがちな、男性が社長やCEOで女性はその従業員というような、いわばシンデレラストーリーの逆を行くものであり(2012年の月9の『リッチマン、プアウーマン』は、CEOと従業員であったが、その従業員は東大出身であったが)、ありきたりなシンデレラストーリーではないことで、現代社会に存在する問題に触れることに成功していた。

 そして、『デート』から始まった恋愛経験のない登場人物に焦点を当てる恋愛ドラマの集大成として『逃げるは恥だが役に立つ』があったと言えるのではないだろうか。

 若者の交際率は低下し、恋愛をしている人が以前よりも少ないのは本当かもしれないが、2016年を見てみると、現在の「交際経験が乏しい人が存在している」という点としっかり向き合えば、恋愛ドラマであっても、視聴率に反映するということが明らかになった。

 そこには、恋愛を「胸キュンシーンさえあれば良い」という形骸的なものと考えず、胸キュンシーンに至る気持ちをしっかり描くことが重要である。『逃げ恥』は、「ムズキュン」を売りにしていたし、壁ドンシーンも出てきたが、壁ドンに至る気持ちが丁寧に描かれていて、そこに視聴者が共感できたからこそ、最終回で20%を超える視聴率に結びついたのである。

 良い恋愛ドラマは、「壁ドン」「胸キュン」「過去のヒット作に出演の俳優の名前」などが並び、恋愛ドラマを知らない人でもOKを出したくなるキラキラした企画書からではなく、一見地味でも、社会に横たわる現実と寄り添うようなストーリーから生まれるものだ。そのことが『逃げ恥』のヒットによって明確になった。

 果たして2017年には、どんな恋愛物語が生まれるだろうか。今後も恋愛ドラマに注目していきたい。

文/西森路代 写真/PIXTA