実は女性の年齢に対して偏見はない

 最終話に向けて盛り上がる風見さんと百合ちゃんですが、二人の出会いのシーンではこんなやりとりがありました。みくりから百合ちゃんが美人で若くて自慢のおばだと聞くと、「そういうの苦手かも」「年相応の美しさを目指せばいい」と拒否反応を示す風見さん。ところが、百合ちゃんを初めて見て「おばさんちゃんと年とってますね」とみくりにささやきます。

 この風見さんの発言は、一見失礼なようでいて、実は女性の年齢に対しても偏見のなさがうかがえます。若さだけを重視する価値観にとらわれず、「ちゃんと年をとっていることが良い」とする考えの持ち主なのでしょう。そして風見さんが年齢にとらわれない人だからこそ、17歳も年上の百合ちゃんに対して「甥っ子ではなく男として見てほしい」という気持ちになるのだと思います。

 逆にポジティブモンスターこと取引先の五十嵐杏奈が、「飲みにいきませんか?興味あるんで」と誘ってきたときは、「僕が興味があるかは考えないんだ」とつぶやきますが、これは、女性が自分の価値を過信しすぎていうことに対する疑問にも見えます(もちろん逆に五十嵐杏奈のような男性も存在するわけですが)。

 例えば、昔から「据え膳喰わぬは男の恥」という言葉がありました。これは、女性からのアプローチは受けるものという意味ですが、女性に対する欲望が男性には存在しているという考え方が基本にあるこその言葉でしょう。逆に女性から男性に向けてはこの言葉が成立しないことを考えても明らかです。かといって、「本当にそうなのか?」というのが現代。女性からの好意だからといって、男性がなんでも受け入れるなんてことは今はあり得ません。

 男性でも、見た目だけで判断され、自分が相手に興味を持っているかどうかはおかまいなしで誘われたとしたら……? そんな目線が風見さんの行動から見えました。

 少女漫画ではときおり見かけますが、女性が男性から向けられる目線を、もしも男性が女性から向けられたら?という逆転の発想があると、妙に興味深いキャラクターになるものです。そして、この「逃げ恥」では、百合ちゃんと風見さんというのは、見た目で身勝手に向けられてきた目線に悩まされてきたという意味で、シンパシーの持てる同士なのです(この点においては、原作のほうが色濃く描かれてます)。