百合ちゃんが現実との距離感が近い理由

 こんなことがあったら普通はもっと悲壮感が漂うものですが、百合ちゃんは意外とからっとしています。前述のセクハラ疑惑に対しても、「やりたくもないのにお小言おばさんもやってるのに、色ボケおばさんまで加わってやってらんない」と、みくりたちの家に行って、ビールを飲んで愚痴ったことでやり過ごしています。その良い意味での「気楽さ」が、見ていてすごく安心させてくれます。

 そして、あんなに美人でポジティブで仕事のできる百合ちゃんのような人でさえ、働き続けるという上で、さまざまな偏見を向けられるエピソードが描かれていることで、現実との距離感の近さを感じます。

 もしも百合ちゃんが、よその部長の上司に「部下をいじめている」とみなされなかったり、会社でセクハラ疑惑をかけられたりすることがなかったら、それはそれで「働く女性に対して、こんな風に偏見を向けない会社があっていいな」と思わせることはできたでしょう。ですが、私たちと同じだという共感までは得られず、ただ綺麗で仕事ができる独身のキャラクターと受け止められるだけだったでしょう。

 第9話で展開されている、百合ちゃんが手掛けている化粧品の地域限定広告をめぐるシーンも象徴的です。

 上層部は、「愛され」「モテ」などの言葉が並び、ピンクの花びらやハートが散らばった、俗にいう「ダサピンク」の広告デザインを通してしまいました。しかし、百合ちゃんがその化粧品の広告で10年守ってきたコンセプトは「自由に生きるために美しくなる」というもの。上層部のピンクの広告は、地域限定の広告とはいえ、守ってきたコンセプトが覆されてしまいます。

 上層部の男性は「異性にモテたいっていうのはこれ人間の自然な感情でしょ」とピンクの広告のまま推し進めようとしますが、百合ちゃんは、「そうしたコンセプトのメーカーがあるのはかまわない」としつつも、これまでのコンセプトがユーザーに支持されていることを数をもって説得し、守ろうとします。

 説得した後に、男性上司から「融通が利かない」「だから独身なんだ」「必死なんだ」と陰で言われるシーンが、女性が自由に生きることの難しさを物語っています。

 このシーンは、今年起こったCM炎上の件を、短い中で振り返り、そしてその問題点を分かりやすくひも解いてくれているようでもありました。会社に一人、百合ちゃんのような人がいたら……と思わせてくれるし、自分も百合ちゃんのような人になれたらと思えるシーンでした。