対話に絶妙な緩急をつけるテクニック

 例えば、9月15日の『夜の巷を徘徊する』では、マツコさんは東陽町のホテルでウエディング体験をします。変幻自在の接し方はここでも確認できました。

 そこで出会うホテルの支配人や従業員とは敬語でやりとりし、「お騒がせしました」「ありがとうございました」と丁寧にあいさつ。ところが、神前式の結婚式場で、番組スタッフに三三九度をやったかどうかを聞いたとき、「やっていない」と答えたスタッフには、「しょーもない…」と舌打ち。はたまた、式場に居合わせた結婚を控えたカップルには、フランクなタメ口で話しかけ、「せっかく会ったんだからさあ」と言って、自分の財布の中からお金を取り出し、御祝儀袋に入れて「ごめん、これさあ、ピン札がなくてごめん」と言いながらカップルに渡し、恐縮しきりのカップルに「かなり助かったから、リアルカップルいるっていうのもありがたいよね」とささやきます。

 この緩急のつけ方は見事としか言いようがないし、しかも、わざとらしさも感じさせません。

 一方、マツコさんがスタッフだけでなく一般人に厳しいときもあります。『マツコ会議』の中継で登場した、積極的にぐいぐいくるタイプの人に対しては、「一見してやだー、押しが強い」と冗談めかして拒否。しかし、その人が「Huluで見てます」というと、スタッフに向かって「あんたたちが食べていけてるのアイツのおかげだよ」とフォローも忘れないのです。

 ただ、昨今は、テレビでの「いじり」は問題視されています。お笑い芸人の間の「いじり」は、いじめにつながるのではないかということも議論されます。もちろん傷つく人がいるタイプの「いじり」には私も賛同できません。

 でも、すべての物事に個別の判断がいるように、「いじり」も一概にすべてがダメと言えるものではありません。例えば、私は15年くらい前に、お笑いのイベントに行って、突然客いじりのターゲットになったことがあります。客席にいる自分を容姿や雰囲気を理由に(客をいじるときの情報ってそこしかないですから)、突然ターゲットにされるのは非常につらかったことを覚えています。でも、自分が失敗したり空気を変にしてしまったとき、フォローするために周囲の人(例えば、取材中に芸人さんがそうしてくれることもあります)がそこをいじったり突っ込んでくれると、助かったと思う時だってありました。