自由であるために、人の自由も認める

 しかし、カズレーザーさんは、そんなことはあまり関係ないように見えるし、番組では、堂々と正論を口にします。例えば、「お願いランキング」(テレビ朝日系)の番組内企画「カズレーザークリニック」でのこと。

 プライドの高いことが悩みの女子大生に対しては、「研究したり学問を収めたりする人にはプライドがあっていい、好奇心が一番学問を育てる」とアドバイスしていたし、社会適応能力の低さに悩む医学部の高学歴女子には、「社会適応能力が欠如してても別にいいと思うんだよね。医療技術を磨いたほうが信頼できるでしょ」と、その人の悩みを良さに変えてしまいます。ネットで話題となった、女子力がないことに悩む高学歴女子大生にも、まず悩みを聞いたときに「へー高そうだけどね」と、女子力の高そうなことは否定せず、その上で「女子力なんて概念はない」と答えていました。

 番組では、そんなカズレーザーさんの意外性のある相談者への回答を見て、ザキヤマこと、アンタッチャブル・山崎弘也さんが番組内で、「ちゃんとしたこと言うなおい。もうちょっとわけ分かんないこと言ってくれよ。酒飲んで忘れろくらいのこと言わないと」と突っ込みを入れていましたが、最後には、「いいクリニックだよ」と認める発言もしていました。

 この番組を見ていて思ったのは、カズレーザーさんは、他人が変であっても、それを拒否する気持ちもなければ、自分がまともなことを言うことも否定していないということでした。カズレーザーさんを見ていると、自由とは、人の自由を奪うものではなく、自分も自由でいるために、人の自由も認めることであると分かります。

 カズレーザーさんがこうした心境に至ったのは、「変わってたけど、ものの見方がフラットだった」という高校の先生の影響だと週刊誌に書いてありました(FLASH 2016年7月12日号より)。すべての人が、現実社会でこうした出会いに恵まれて良い方向に影響を受けるとは限りません。しかし、テレビの中のカズレーザーさんのポジティブな言動に出合い、良い影響を受ける人もいるのかもしれないなと思いました。

 もちろん、今までにもポジティブな芸人さんというのは存在しました。例えば、ノンスタイル井上さんのポジティブさは、自分にどんなことを言われても受け入れるというものでした。カズレーザーさんの場合は、自分を受け入れ、また他人の“おかしみ”も受け入れているようなところが新しく見えます。

 今の時代、どんな人も、どこかおかしなところがあると自覚しているもので、そんな全てを受け入れる態度が彼の人気の所以ではないかと思うのです。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ