期待を裏切らないやつ、憎めないやつ

 著書の「ムロ本、」には、俳優の新井浩文さんとムロさんの対談も掲載されています。そこでムロさんは新井さんから、熱くなったときの口癖が「結果を出せ」というものだということを暴露されていました。これは元はというと、前出の本広さん、そして「踊る大捜査線」シリーズの脚本家の君塚良一さんにムロさんが言われていたことで、そのことでいつも泣かされていたんだそうです。

 ムロさんはこの新井さんとのやり取りの中で、「俺らの周りには若い子が手段を選んですぐに成功、というか形になる人もいるじゃない。芝居がわからなくても、凄くカッコよかったり、凄く個性的な顔を持っていたり」「でも、そこにすぐ行けない人がうだうだ何年も経って、まだやり方や種類、好みを選んで食いたいというから、それはおかしくないかというところから熱くなってくる」と語っています。

 俳優は持っている自分の特徴を生かして成功することもできるのに、それで成功するのはどこかかっこ悪いからと、正攻法だけでやっていくことにこだわって結果を出さないのはもったいない、という意味なのかなと考えると、これは俳優以外の人にも刺さる言葉なのではないかと思いました。

 自分に置き換えてみると、自分のかっこ良さややり方にこだわって、せっかく自分を使ってくれている人のために結果を出すことを後回しにしているのは、自分にばかりこだわり過ぎだなと、そういうふうにも受け取れます。

 ともすれば、俳優は、「あいつは顔だけだ」とか「あいつはノリだけだ」などと皮肉られることもある職業なのかもしれません。ですが、そんな自意識は捨てて、目の前の演出家なり監督なり、指名してくれたスタッフなりを納得させたり、また何かの成績で見せたりするほうがいいということも納得できます。

 そういうムロさんの力が、福田作品のアドリブ部分や、NHKの「LIFE!」などのコントで生かされていることも納得できます。アドリブもコントも、誰かを笑わせたという結果がすぐに見えないといけないわけですから。

 この本の中には、福田雄一さんがムロさんについて語ったインタビューも掲載されています。その中で、福田さんがムロさんに求めていたことは「どんな事を言っても憎めなヤツ」を演じてほしいということだったといいます。さっきの「結果を出せ」ということは、誰にでも実践できそうな教訓でしたが、「憎めないやつ」になるということは、一朝一夕ではできないこと。でも「ムロ本、」を読んで、どうやってそんな「憎めないやつ」が出来上がったのかという秘密がちょっと分かったような気がしました。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ