逃げ恥で描かれた、童貞喪失と恋愛・結婚のカタチ

「逃げるは恥だが役に立つ」1巻表紙。「契約結婚」「就職難」「派遣切り」「高齢童貞」などのキーワードが並ぶ
「逃げるは恥だが役に立つ」1巻表紙。「契約結婚」「就職難」「派遣切り」「高齢童貞」などのキーワードが並ぶ

――海野さんは、「逃げ恥」で男性の童貞のことを描こうという意図が最初からあったんですか?

海野 最初は考えてなかったんですけど、週刊プレイボーイの書評に「平匡の童貞喪失問題を見守りたい」と書かれていたのを読んで、そこは描かないといけないなと思い始めて。

野木 家事労働とはなんぞやということも最初から描こうと思っていたんですか?

海野 家事労働もなんですけど、結婚の問題を一通り、描けるだけ描きたいなと考えていました。最初は、特に恋愛に話を振っていこうとは考えてなくて。それに、百合ちゃんや沼田さんは、1話では完全に脇役だったんですよ。沼田さんなんて、最初はガチムチだったのに、後からぽっちゃりして、顔も違いますから(笑)。結構いろんな意味で、流動的な感じで描いてましたね。

野木 そうはいっても、萌え転がったりするシーンがあったり。テレビ局からドラマ化したいってオファーが来るのも、そこをやりたいからですよね。

――その「萌え」についてなんですが、キスシーンは6話の最後で、初夜もその後でしたが、そのタイミングについてはかなり考えられたんじゃないでしょうか?

野木 プロデューサーたちとの最初の打ち合わせから、初夜をどこまで引き延ばすかについての議論をしていました。でも初夜が最終回はないよねという話になって。

――でも、そこに至るまでの時間が長いからこそ、その後の津崎さんの浮かれっぷりがイラっとするけどかわいかったりして。

野木 イラっとしましたよね(笑)。

海野 それまで「平匡さん」って呼んでたのに、「ひらまさー!」って呼び捨てになったりね(笑)。

野木 あと、キスシーン自体に萌えるわけでもないんですよね。キスまでの過程に萌えるんであって。それに、平匡とみくりが恋愛体質でもなく、理性が勝ってて、敬語でバカ丁寧に会話する二人だからこそ萌えるんじゃないですか。

海野 そこが一番大事ですよね。関係性に萌えるんだから、それをじっくり描くことによって、見ている人も二人の進展に期待するようになるわけですから。

この人に聞きました
海野つなみ
漫画家。1989年、第8回なかよし新人まんが賞に入選し、なかよしデラックスにて「お月様にお願い」でデビュー。 2012年スタートの「逃げるは恥だが役に立つ」がドラマ化されて大ヒット。主な作品に「Kissの事情」「回転銀河」「後宮」「小煌女」など
野木亜紀子
脚本家。映画「図書館戦争」シリーズ、「俺物語!!」「アイアムアヒーロー」、テレビドラマ「空飛ぶ広報室」「掟上今日子の備忘録」「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」など

文/西森路代