法人は強制加入が原則

 結論からいうと、和香さんが正社員という身分を保ちながら、社会保険を脱退することはできません。まず、法人であれば強制加入で社会保険の適用事業所となり、その事業所に常時使用される人は、国籍や性別、給与の額などに関係なく、すべて被保険者となります。

 法人でない場合も、常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所であれば、社会保険に入るのが原則です(ただし、クリーニング業や飲食店などの一部のサービス業や農業、漁業等はその限りではありません)。

 法人でも社会保険に加入していない事業所は数多くあるため、和香さんのお友達はそうした職場に勤務している可能性が高いといえます。確かに、社会保険料が天引きされていなければ、その分手取り額は多くなります。しかし、そのように単純に考えてよいものでしょうか?

給付のメリット、実は大きい

 たとえば、給与30万円の人は、健康保険料が1万4940円、厚生年金保険料が2万7273円、計4万2213円が天引きされています(2016年9月現在、協会けんぽ東京支部の場合)。

 国民健康保険料を試算すると、約1万7645円(横浜市・2016年度の場合)、国民年金保険料は1万6260円、計3万3905円となります。手取りは高いとはいっても、実際にはこうしたお金を別途支払う必要があることを覚えておく必要があるでしょう。

 会社の社会保険に入っているメリットは、保険料を会社が半分負担してくれているため、将来もらえる年金額が国民年金よりもずっと多くなること、また病気やケガをしたときの傷病手当金や産休中の出産手当金など、各種の給付金が受けられるというメリットもあります。

 女性であれば、産前産後休業中にもらえる出産手当金や、産休・育児休業中の社会保険料免除のインパクトも大きいといえるでしょう。給与が産休前1年間ずっと30万円だと仮定した場合、出産手当金としてもらえる額だけ試算しても、約65万円強になります。

 市町村の国民健康保険では、残念ながら出産手当金や傷病手当金などの給付制度がなく、また国民年金保険では、産休・育休中の保険料免除制度も現在のところありません。

 社会保険に入りたくとも、会社が加入していないために入れない、という方は全国に少なからずいらっしゃいます。こうしたメリットを知っていれば、なおさら「社会保険完備」の職場に勤めたいと思うのではないでしょうか。

 また、年金について不安を感じるなら、老後に備えて自分自身で長期的な運用や貯蓄をしていくことが大切です。厚生年金に入らないということは、加入している人とくらべて、もっと自助努力をしなければ老後の生活がひっ迫してしまうおそれがあります。

 目先の利益にとらわれて、長期的な保障やメリットを見過ごしてしまうのは、非常にもったいないと言わざるを得ません。まして、マネージャーという立場で社員を管理していく立場にある人が、自分だけ社会保険に入りたくない、と主張するのは考えものです。

 本人の意思で社会保険の有無を決めることはできません。どうしても加入したくないなら、個人事業主となるか、短時間労働者など社会保険に加入しない労働条件に変更するなど、働き方そのものを見直す必要があるといえるでしょう。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA

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