最低賃金は労働者に共通するルール

 最低賃金は時給で示されるため、一見すると時間給で働くことが多い非正規労働者に適用されるものだと思われがちです。しかし、雇用契約を結んで労働者として働く方であれば、誰にでも適用されるルールです。

 意外にも気を付けたいのは、「正社員」という場合があります。月給制の場合では、内訳を見るといろいろな手当が交ざっており、総額はそれなりの金額だったりすると、つい油断してしまいます。注意したいケースとしては、固定残業手当(みなし残業代)の割合が高い場合。また、会社の賃金テーブルが古いまま改定されず、最低賃金を下回って基本給等が設定されているケースもあります。

 月給制であっても、念のため最低賃金を下回っていないか確認しておきましょう。単純に基本給しかない場合は、基本給を月の平均所定労働時間で割ります。最低賃金をチェックするときは、手当も含めて計算しますが、「通勤手当」「精皆勤手当」「家族手当」が含まれている場合は除外します。また、時間外労働、休日労働、深夜労働における手当も除きます(毎月固定で支払われるみなし残業代も含む)。その他、臨時に支払われる賃金や、1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金も除いて、最低賃金と比較します。

 すると、月給20万円であっても、残業代や各種手当を除いて計算したら最低賃金を下回ることもあり得るのです。仮に、基本給が20万円、1日の所定労働時間が8時間の会社で月平均所定労働日数が20日の場合、時間単価にすると1250円です。こう考えると、主として時給で働くパート・アルバイトと、最低賃金の高い大都市圏ではそれほど大きな差がないことが分かります。

最低賃金が守られない場合は企業に罰則も

 働き手から見れば最低賃金が引き上げられることは歓迎される一方、企業側から見ると時給26円の上げ幅に対するインパクトは大きく、生産性を高めるために知恵を絞っていかねばなりません。生産年齢人口が減少し、人材確保が厳しくなる中、企業も生き残りをかけて必死な状況といえるでしょう。

 この最低賃金制度は、国が賃金の最低額を定めるもので、使用者はその最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。これに違反した場合、50万円以下の罰金も定められています。

 なお、最低賃金には上記で述べた「地域別最低賃金」の他、特定の産業に従事する労働者に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があり、地域別と特定産業別の両方が適用される労働者には、高いほうの最低賃金を支払うことになっています。

もし最低賃金を下回っていたら…

 地域別最低賃金は、10月をめどに改定されますが、地域によって施行日が前後することがあります。

 改定日以降において、もし自分の給与が最低賃金を下回っているような場合は、まず会社にそのことを伝えてみることです。会社側もうっかり対応が漏れてしまっている可能性もあります。

 それにもかかわらず、しかるべき対応をしてもらえない場合は、会社を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。最低賃金より下回る場合、雇用先と結んだ雇用契約は法律によって無効になり、「最低賃金-賃金額」の差額を請求することができます。

もしも最低賃金を下回っていたら… (C)PIXTA
もしも最低賃金を下回っていたら… (C)PIXTA

 なお、派遣社員の場合は、派遣先の地域別最低賃金が適用されます。いずれにせよ、最低賃金は私たちの給与に密接に関わるものです。改定の動向については、その都度確認しましょう。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA